第128話 三つの希望

 病院から《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスへと戻ってきた。呪いを解いたことで、お二人との距離が少し近くなったように感じる。


「こちらが今回の依頼票です。依頼に成功した時には、こちらを渡すように伺っているんですが、良いんですかね」

「ああ、預かるよ。今からすぐに探索者省に連絡を入れて、依頼達成の措置をしてもらうよ」


 大きな机の上にある電話で指示をしているようだ。しばらくして部屋に入ってきた人に依頼票を渡している。


「いやー、なんかお礼をせんといかへんな。なんか欲しいものはないんか?」

「いや、依頼の達成料金が出ますし、別にお礼なんて良いですよ」

「専門家には全部あたって、一ヶ月かかってもどうにもならなかった。藁にもすがる思いで探索者省に依頼を出したんだ。期待はしていなかった。もう命が危ないと医者にも言われていた。でも、君が呪いを解いてくれた。お礼をさせて欲しい。私達に出来ることならなんでもするよ」


 はい、なんでもするをいただきました。本当になんでもしてくれるのだろうか?


「なんでもしてくれるなら、希望を言って良いですか?」

「ああ、是非言ってくれ。私達に出来ることなら希望を叶えるよ」

「三つもあるんですけど、図々しく全部言いますね。一つは探索者省に僕にSランクダンジョンの大阪ダンジョンに関して書かれた本の閲覧を許可するように要請して欲しいです。国内トップクランの要請なら聞いてくれるかもしれませんから。二つ目は《Black-Red ワルキューレ》に誘ってほしい人がいます。実力は確かなので、僕のことは隠して誘ってほしいです。三つ目は明日僕のクランメンバーをここに来させて欲しいです。お二人に憧れているメンバーがいます。会ってくれませんか?」

「よう分からんもんばっかりやな。一つ目の本ってなんなんや」


 僕は青いオーガに出会った時の話をした。


「それは大変なことではないか。何処のダンジョンにも現れる可能性があるということだな。私達を含め全探索者に関係することだぞ。《東京騎士団》にも声をかけた方が良いかもしれない」

「岡山県の探索者協会からはずっと要請し続けてもらってます。クラン順位が高い方が要請を聞いてもらえるかもしれないと言われたので頑張っています」

「話は分かったわ。ウチと《東京騎士団》と連名で出してみるわ」


 《東京騎士団》まで出てきたぞ。


「《東京騎士団》とは仲が良いんですか?」

「大阪と東京の違いはあるけど、お互いにSランクに最も近いと言われているからね。交流はあるんだよ。情報の交換もおこなっている。仲は良いと思ってるよ」


 なるほど、なるほど。ついでに図々しくいきましょうか。


「二つ目は誰を誘ってほしいんや」

「僕が前に所属していたパーティにいたメンバーなんですが、Aランクダンジョンじゃないとやる気が出ないそうなんです。高校入学してから五年でAランカーになったので優秀だとは思うんですがどうでしょう。女性二人と男性一人なんですが、男性の方はAランク探索者のパーティがあれば推薦してほしいです」

「なんでそんなんあんたがするんや。麟瞳とはもう関係ないんやろ」

「ええっとですねー、実はその三人ともう一人が今パーティを組んでて、そのもう一人を僕のパーティに誘ったんですけど断られたんです。三人のことがほっとけないようで。三人はAランクダンジョンじゃないとやる気が出ないと言ってあまり探索していないようで………それが腹立たしくて。僕はずっと弱くて、その三人とは仲は良くなかったですけど、実力は認めてて、ある意味憧れていました。それが何もしないままだともったいなくって」

「結局は三人が邪魔なんだろ。君も結構腹黒いな。私達のクランに入るには厳しい入団テストを受けてもらわなければならない。君の頼みでもすぐには入れない。入団テストの招待状を出すで良いかな。《東京騎士団》にも声をかけておく。それも狙っていたんだろ」

「バレてますね。でもやる気になれば本当に実力はあります。よろしくお願いします」

「ああ、ちょうど八月に入団テストがある。それに向けて頑張ってもらおうか。名前とどこにいるか教えてもらおう。世那と私の名前を入れて招待状を出せばやる気が出るのかな?」


 《百花繚乱》の拠点と三人の名前を伝えた。僕の名前は出さないように念押しした。僕とは仲が悪いんで。


「三つ目は大歓迎や。本人は参加出来へんけど、呪いを解いてくれたパーティーをせえへんとな。今までクラン全体が暗かったからちょうどええわ」

「そうだな。明日の夕方からウチの食堂でしようか。君が呪いを解いてくれたことは全員に知らせても良いのか?」

「ええ、大丈夫です。スキルについては広めないようにしてほしいですけど」

「分かった。明日の夕方の六時からにしよう」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 次の日の夕方に着飾ったクランメンバーを連れて《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスを訪れた。会場の食堂は沢山の料理が並べられているところだった。そこに案内されて来た。


「よう来はったな。ウチがクランマスターの黒澤世那や」

「私がサブマスターの赤峯美紅です。よろしく」


 《花鳥風月》の皆が感動した様子で挨拶をしている。パーティーはもうすぐに始まりそうだ。

 



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