第127話 呪いを解除
京都の拠点に近い川沿いのランニングコースを走った。学生時代から約七年の間に一番よく走ったコースである。京都を離れて一年、変わらない風景を楽しみながら走った。朝早くにもかかわらず出会うランナーも多く、大変人気があるランニングコースだ。
京都で朝の鍛練を終えた後、岡山のクランハウスに戻ってきた。風呂で汗を流し、食堂で朝御飯を食べる。昨日の電話がかかってきてから、呪いのことばかりが気になっていた。他のメンバーは今日はどうするんだろうか?
「美姫、《千紫万紅》は今日何をするんだ?」
「昨日話を聞いたCランクダンジョンを三人で探索して来ます。《カラフルワールド》は草原型のダンジョンに行きますから、私達は湿原型ダンジョンに行くつもりです。明日は休みですし、思いっきり暴れて来ます」
暴れて来るって表現が戦闘狂だよね。Cランクダンジョンなら三人でも大丈夫だろう。朝御飯を皆で食べて京都へと戻ってきた。当然皆揃ってだ。
《千紫万紅》と《カラフルワールド》が別々のダンジョンへ出かけるのを見送った後、僕も大阪の《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスに向かって出かけた。依頼票はちゃんと持っている。忘れ物はない。
目の前にはビルがある。このビル丸ごと一棟が《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスである。僕達のクランハウスとの違いに圧倒されながら中へと入った。ビル内に入りキョロキョロしてしまう。何処へ向かえば良いのだろうか?そうしていると一人の女性が僕の元へ向かって来た。
「龍泉様ですか?」
「はい、今日こちらに伺うことになっている龍泉です」
「クランマスターから案内するように言われてます。一応あそこがクランの受付になります。分かりにくくて申し訳ありません」
手の向けられた方に視線を向けるとちゃんと受付があった。全然分かりにくくありませんよ。ただ僕が緊張しているだけでした。
「いえいえ、僕が気付かないほうがおかしかったですね」
案内されるままにエレベーターに乗り移動する。立派な扉の上にクランマスター室と書かれた部屋の前までやって来た。扉が開けられ部屋の中へと促される。部屋の中には二人の女性が僕の到着を待っていた。
「よう来はったな。ウチがクランマスターの黒澤世那や。今日はよろしゅう頼むわ」
「私がサブマスターの赤峯美紅です。わざわざお越しくださりありがとうございます」
対照的な雰囲気を持つお二方だが、二人とも放つオーラがハンパない。
「龍泉麟瞳です。今日はよろしくお願いします」
ソファーに向かい合って座り、先ほどの案内をしてくれた女性が飲み物を用意してくれてから話が始まった。
「最初に謝っておきます。龍泉様を鑑定させていただきました。申し訳ありません」
いきなりサブマスターの赤峯さんが謝ってきた。
「様付けはやめてください。探索者として尊敬する方からそのような対応をされると恐縮しますので、龍泉、麟瞳どちらでも良いので、呼び捨てでお願いします」
「ほなら麟瞳、鑑定されたのに怒らへんのか?」
「世那、失礼やわ。調子に乗ったらあかんで」
赤峯さんも関西弁なんだね。素が出てますよ。
「鑑定というのがよく分かってないので、言われてもピンときません。鑑定で何が分かるんですか?」
「全部やわ」
「まさか僕のスリーサイズまでお見通しなんですか?」
「ハハハハ、なんやおもろい人やないか。美紅、もう警戒せんでもええわ。裏なんかあらへんわ」
「世那、ばらさんでもええやん」
どうも僕は警戒されていたらしい。心当たりがないんだが。
「どうして僕を警戒されていたんですか?」
「警戒するというか、会見でクランのランクについては考えていないという割には、毎月私達よりも上にいますし、今回の依頼にも裏から手を回してウチのクランを偵察に来ただけで、呪いを解くなどしないのかと思ってました。失礼なことを考えて申し訳ありません」
「依頼を受けるまで誰が依頼人か分かりませんでしたし、クランのランクについては事情があって頑張っています。確かにあの会見では嘘をついたことになりますね。でも、偵察とかしないですから。もうここのクランハウス見ただけでビビってますからね」
「鑑定は敵対しているかどうか分かります。それにスキルや年齢も分かります。勿論名前も分かります」
案内をしてくれた女性が鑑定について教えてくれた。
「貴女が鑑定をしたんですか?」
「はい、すみませんでした」
「僕のスキルについて詳しいことは分からないんですか?」
「すみません、スキルの名前しか分かりません。詳しいことは分からないんです」
「なんや分かりにくいスキルを持っとんか?」
「隠してもしょうがないですね。僕の【点滴穿石】という四字熟語スキルがいまだによく分からなくて、もし分かるなら教えていただきたいと思いました」
「あんたもユニークギフト持っとんか。ウチもいまだに【唯一無二】というスキルのこと分からへんわ。一生分からんかもしれへんなー」
「そういうものなんですかね。鑑定についてはもうしょうがないですね。ただ他の人には僕のスキルをバラさないで下さい。結構ビビリなんで、バレたら夜も眠れなくなります。それと警戒する理由も納得できました。そろそろ、今日の本題を話しませんか?今も苦しんでいるんでしょ」
「ああそうだね。龍泉さんはどうやって呪いを解くつもりなのか聞いても良いかな?」
関西弁は素の時だけのようだ。赤峯さんが砕けた口調で聞いてきた。
「鑑定で分かると思いますが、【全解除】というスキルを僕は持っています。これで呪いを解除するつもりです」
「そんなスキル初めて聞いたわ。呪いを解いたことはあるんか?」
「呪いにかかった人に会ったことないので、当然呪いを解いたことはありません。でも可能性はあると思ってます。もし僕が力になれるならと思って依頼を受けました」
「いままで出来ることはしてきたつもりなんだが上手くいかなくてね。ありがたくその気持ち受けとるよ。早速移動してもらおうか」
三人の付き添いのもと大きな車で近くの病院まで連れられた。豪華な個室にやつれた一人の女性がベッドの上に横たわっていた。呪いのことを考えながら女性を見てみる。悍ましい何かを胸の辺りで感じる。
「胸の辺りに原因があるように感じます。スキルを使って良いですか?直接触れないといけないような気がします」
「頼むわ」
着ている服が脱がされた。心臓の上に手を当て、呪いが解けるように願う。数分経っただろうか、悍ましい何かが消えている。何も感じなくなった。
「呪いを解除出来たと思います。これも鑑定で分かるんですか?」
受付の女性が鑑定したのだろう。鑑定結果を二人に伝えている。衰弱はしているが、呪いはなくなったと言っている。僕のスキルって優秀だね。もしかして状態異常になっても解除出来るかもしれないな。状態異常耐性のマジックアイテムが欲しいと思っていたが、スキルで解除出来るなら急がなくても良いかもしれない。そんなことを考えていた。
「麟瞳、ありがとな。なんや簡単にいきすぎて、ビックリする間もなかったわ。あんた流石に優秀やな。ウチのクランに欲しうなってしまうわ」
「いや〜僕女装の趣味ないんで、お断りさせて頂きます」
「龍泉さん、ありがとう。私のせいだと思っていたから。本当にありがとう」
呪いにかかった女性は斥候職の女性で、若手育成のために赤峯さんに代わってトップパーティに入って探索していたそうだ。大阪のAランクダンジョンの二十階層のボス部屋の宝箱を開けるときに罠の解除に失敗して呪いにかかってしまったらしい。
ダンジョンの罠には要注意だね。そんな罠の存在は初めて聞いた。そして《Black-Red ワルキューレ》にとってAランクダンジョンの二十階層は練習の場なんだね。僕達は十五階層でギブアップしたんだ。大きな力の差を感じるよ。探索者のトップはまだ遠い存在のようだ。
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