第126話 依頼人

 クラン会議で決めたように、七月一日の朝一番に呪いを解く依頼を受けた。今は先方からの連絡を待っているところだ。


 そして京都に拠点となる家を三ヶ月契約で借りた。ダンジョン物件といわれる即日入居できる家なので、契約期間の開始の日である七月一日に早速繋ぐ札でクランハウスと行き来できるようにした。ワンルームマンションのような小さな部屋でも良いように思ったが、ワンルームマンションから十人が出て来たらおかしいと思われるでしょという意見に納得し、更にマンションタイプのダンジョン物件だと探索者だらけのご近所付き合いが面倒臭いということで今回も一軒家を借りることになった。女性だけのパーティだといろいろ気をつけることがあるようだ。僕は気づいてなかったが、これからは気にするようにしよう。


 ご近所には挨拶をして三ヶ月お世話になること、普段はダンジョンの探索に出ているので家に居ないことが多いことを伝えた。休日以外はほとんど居ないと思う。クランハウスで食事を食べ、風呂に入り、寝ることになる。念のために僕だけが京都の拠点の家で寝ることにした。もしも夜に訪問して来る人がいたときのためだ。


「《花鳥風月》の全員で今度京都に拠点を構えて、BランクダンジョンとCランクダンジョンを探索することにしたんだ。Bランクダンジョンの探索に臨時メンバーとして参加してくれないか?《百花繚乱》の探索の邪魔は勿論しないよ。《百花繚乱》が探索しない日だけ力を貸して欲しい。皐月は誕生日プレゼントの神戸ダンジョンの探索を楽しみにしていたんだよ。誕生日は五月で今はもう七月になろうとしている。誕生日プレゼントだと思って一日だけでも良いから参加してくれないか?」


 京都に向かう前に正輝に連絡を入れた。戸惑いながらも了承の返事をしてくれた。正輝が参加する日はBランクダンジョンで探索することに美姫と詩音も納得した。詩音は元々反対ではなかったと思う。美姫のための発言だったと確信している。じゃないと三人で神戸ダンジョンに行こうと思わないよね。あとは一日でも多く正輝に参加してもらうだけだ。


 七月一日の夜、クランハウスで晩御飯を食べた後に、《カラフルワールド》からCランクダンジョンの情報を教えてもらうために会議室に集まった。実際には《カラフルワールド》がどれだけダンジョンを把握できたかを確認するためだ。僕は《百花繚乱》にいた頃はダンジョン調べを徹底的にしていた。それしか貢献できなかったからね。この経験は今に役立っている。魔物の特徴を知るだけでも勉強になる。京都にはCランクダンジョンが二つある。一つは草原型で、もう一つは湿原型だ。こうしたタイプの違うダンジョンを調べて実際に探索していくことでダンジョンのタイプ毎に気をつける点も分かってくる。


 会議室で話を聞き始めてしばらくしてから、クランの依頼人からの連絡が入り、真姫が会議室を出て行った。クラン《花鳥風月》の依頼の窓口は真姫であるから当然の対応だ。


 真姫が僕の肩を叩き、目線で会議室を出るように誘う。


「依頼人が想像以上の大物なのよ。電話を代わって話をして。他のメンバーには依頼人のことは絶対に話したらダメよ。依頼人は《Black-Red ワルキューレ》のクランマスターの黒澤世那くろさわせなさんだったわ。呪いを解呪する麟瞳さんと話をしたいということなの。よろしくね」


 そりゃあビックリだね。高ランク探索者という真姫の想像は大当りだったよ。まあ高ランク探索者の範疇を超えて、最高クラス探索者が正確なんだろうけど………ヤバい、緊張してきた。渡されたスマホを持つ手に汗が出て来たよ。


「お電話代わりました。クラン《花鳥風月》のクランマスターの龍泉麟瞳です。この度は力になりたいと思い依頼を受けさせていただきました」

「あんたが今飛ぶ鳥を落とす勢いのクランのマスターなんか?よろしゅうな。ほんとに呪いを解くことが出来るんか?呪術師や祈祷師に来てもらってもあかんかったんやけど、お願いしてもええんか?」

「絶対に呪いが解けるとは言えませんが、全力を尽くします。駄目だったときはすみません」

「先に謝られても困りますわ。出来るだけ早うお願いしたいんやけどええやろか」

「どちらに伺えばよろしいですか?今日から京都を拠点にしていますので、大阪ならすぐに行くことが出来ます」

「ほんまか。せやったら明日にでも来てほしいわ。早う苦しんどるのを取ってあげたいし、お願い出来るやろか?」

「明日ですね。クランハウスに伺えばよろしいですか?」

「そやな。明日待っとるわ」

「午前中に伺います。僕が一人で伺いますのでよろしくお願いします」


 いやー、緊張したよ。東の《東京騎士団》、西の《Black-Red ワルキューレ》誰もが知っているクランの西のトップと話したんだよ。今更興奮してきたよ。【唯一無二】の黒澤世那さんと【用意周到】の赤峯美紅あかみねみくさんの二つのパーティが一緒になってクランを設立し、トップを走りつづけている女性だけのクランが《Black-Red ワルキューレ》だ。粗相のないように注意しよう。


「麟瞳さん、どうだった?」

「明日の午前中に、《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスを訪ねることになったよ。僕が一人で行くから、依頼の達成時にはどうすれば良いか教えてほしい」

「なんで一人で行くの?私も会ってみたかったわ。憧れの人なのよ」

「真姫は《東京騎士団》に憧れていたよね。なんで《Black-Red ワルキューレ》の黒澤さんも憧れの人になっているんだよ」

「探索者のほとんどの人が憧れているわよ。今更麟瞳さんに付いていけないじゃない」


 文句を言われてもそれこそ今更だ。緊張するだろうと思って一人で行くことにしたのに、要らぬ気を使ってしまったようだ。今回は諦めてもらおう。


 他のメンバーには明日の午前中に依頼のために出かけることだけを伝えた。ほとんど《カラフルワールド》の話は聞けなかったが、きちんと調べていたようで安心だ。


 風呂に入った後に、僕だけ京都の拠点に戻った。《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスまでの行き方を調べてから、安眠4点セットを装着して眠った。呪いを解除出来ればいいなと願いながら。


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る