第125話 七月に向けてのクラン会議

「麟瞳、スマン。返事を待ってもらったけど、やっぱり俺は《百花繚乱》を離れられない。新しいメンバーを入れてAランクダンジョンに挑戦するよ」


 何となくこうなるような気はしていたが、正輝から正式に断りの返事が来た。六月の中旬であった。一ヶ月以上経ってからの返事からも、かなり悩んで決めたことが窺い知れる。相変わらず正輝以外の三人は、Bランクダンジョンの探索には文句を言っているようで腹立たしく思うが、これは正輝が決めることである。とても残念に思ったが気持ちを切り替えて、うちも新しいメンバーを探さなくてはならないと思った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 六月の最後の金曜日に《カラフルワールド》の六人が岡山ダンジョンを完全攻略した。自分達の力だけでの完全攻略、これで正真正銘のBランカー六人のパーティになったといえるだろう。


 その夜にクランハウスの大会議室で七月のクラン《花鳥風月》の活動をどうしていくか話し合う。参加するのはクランメンバー全員だ。


「まず《千紫万紅》についてだが、もう一つCランクダンジョンを完全攻略してからBランクダンジョンを探索する予定だったが、Cランクダンジョンを探索することでのメリットがあまりないような気がして来たんだ。Cランクダンジョンだと今の《千紫万紅》にとっては攻略難易度が低すぎて、簡単な探索になってしまうように思う。僕はBランクダンジョンの探索に取り組んでも良いのではないかと思っているんだが、皆はどう思う?」

「岡山ダンジョンや姫路ダンジョンの探索を考えると、Cランクダンジョンでは物足りないのかもしれませんが、私達は四人パーティです。Bランクダンジョンを探索するには不安があります」

「私も一度Bランクダンジョンで失敗しているから不安っす。せめてもう一人アタッカーが欲しいっす。出来れば高火力のアタッカーが良いっす」

「リーダー、正輝さんはどうなったんだ」

「六月中旬に断りの返事をもらったよ。皆に伝えるのが遅れてゴメンね。神戸ダンジョンの探索には約束だから一日付き合うように話はしてあるよ。皐月の誕生日プレゼントだからね」

「綾芽を入れてBランクダンジョンに挑戦するのはどうなんだ。正輝さんに近い能力はあると思うぜ」

「なるほどっす。良い案かもしれないっす」

「いやいや、それは僕達だけの都合で考えているよね。綾芽が抜けたら《カラフルワールド》が困るだろ。四人で低階層ならイケると思うんだが、ダメなのか?」


 美姫と詩音は福岡ダンジョンの三十階層のボス部屋の攻略に失敗してパーティを解散した経験がある。失敗経験がBランクダンジョンの探索を躊躇させているようだ。逆に僕はBランクダンジョンを三回完全攻略している。ほとんど戦力になってなかったが、成功経験しかないからBランクダンジョンでの探索を望んでいるのだろう。Bランクダンジョンで苦心しながら攻略する方が力が付くと思うのだが………。 


「ちょっと良いかしら。今の話の流れだと《千紫万紅》のことはすぐに決められるように思えないから、他から決めていってほしいわ。来月のクランのランクを維持するためにどうしたら良いのか。《カラフルワールド》は何処を探索するのか。大きい議題があと二つあるのよ。決まらない議題は後回しで、先に他の議題を話し合うべきだわ」

「確かにそうだね。他の議題を話し合ううちに良い案が浮かんで来るかもしれない。じゃあ月間ランキングから考えていこうか?僕達が達成できる依頼を見つけるしかないけど、姫路ダンジョンの宝石の納品依頼とは違うものはないのかな?」

「そもそも姫路ダンジョンで依頼達成の条件に合う宝石が出てくることがありえないし、更に希少金属が宝箱から出てくることもありえないわ。麟瞳さんなら何処でも依頼が達成出来そうなのよね。最近新しく登録された依頼の中に、呪いを解くという依頼があるわ。これなら麟瞳さんが達成出来そうな気がするけど、どうかしら?」

「呪いを解くって、呪術師とか祈祷師の仕事だよね。なんで僕が呪いを解くことが出来るんだよ。まあ呪術師や祈祷師は見たことないんだけどね」

「麟瞳さんにはスキルがあるでしょ。いけそうな気はしない?」

「スキルって………ああ、【全解除】スキルか?そんな使い方出来るのかな?考えたことなかったよ。どうなんだろう………分からないな」


 呪いを解除すると考えるのか?


「人に呪いがかけられているか分かるものなのか?」

「それは分からないわよ。でも、依頼が出されているんだから、呪われている人が実際にいるんでしょ。解けるものなら解いてあげたいと思わない?今も苦しんでいると思うわ」


 真姫の最後の言葉を聞いて、出来るのならしてあげたいと思ったよ。出来るならね。


「呪いを解くことが出来るか分からないけど、失敗したときのペナルティーはあるのか?」


 真姫がノートパソコンを出して調べ始めた。時間がかかるようだ。


「真姫が調べている間に《カラフルワールド》の活動について考えようか。綾芽、何か希望はあるのか?」

「まだCランクダンジョンで力をつけるべきだと思うよ。姫路ダンジョンなら十階層まで攻略しているから良いと思うんだけどどうかな?」

「それはやめておいた方が良い。というより《カラフルワールド》に姫路ダンジョンは無理だよ」

「どうして無理なの?これでも強くなってると思っているんだよ」

「気を悪くさせたのなら申し訳ないけど、強いとか弱いとかじゃなくて、あそこは十一階層からクモの魔物が出るんだよ。遥がクモの魔物が無理だったと記憶してるんだけど、違ったかな?」

「お兄ちゃん、ごめんなさい。確かに遥はクモがダメだよ。他のCランクダンジョンで良いところがあれば行きたいけど………週末に岡山に帰って来ることが出来るところが良いんだけど何処かないかな?」

「週末に帰って来るか?確かに親御さんが心配するよな。まだ十代の女の子だもんな」

「それなら、同じ拠点で活動すれば良いと思います。繋ぐ札なら毎日でも岡山に帰って来られます」


 なるほどね。美姫も良いことを言うね。じゃあ、何処のダンジョンを探索するかだな。


「同じ拠点で活動するなら、元に戻って《千紫万紅》がどのランクのダンジョンを探索するのか決めないといけないと思うんだが」

「BランクダンジョンとCランクダンジョンが近い場所にあるところを選んでおけば良いと思うっす」


なるほどね。詩音も良いことを言うね。


「皆で、京都に行くか?京都はダンジョンが沢山あるから条件に合うと思うよ」


 修学旅行でしか行ったことないとか、休みの日には観光したいとかいろいろと言っている。えっ、週末は帰って来るんじゃなかったの?


 大阪にも沢山のダンジョンがあり条件に合っているが、京都にしたのは僕なりの計算があるんだ。正輝を探索に誘ってBランクダンジョンに入れないかなと思っている。臨時パーティとしてなら一緒に探索してくれるような気がするんだ。《百花繚乱》は真面に探索はしてないようだしね。


「私が調べている間に、二つの議題が決まったの?まあ私も京都には賛成よ。楽しみだわ。それより依頼の件だけど、依頼人のことに関しては秘密厳守ね。秘密が漏れた場合には重いペナルティーが課せられるわ。まあ、当たり前ね。失敗すること自体にはペナルティーはないわ。ダンジョン内で呪いにかかったみたいだから、そんな罠があるようなダンジョンに入れる高ランクの探索者が依頼人みたいね。まあ私の想像だけど」

「高ランクの探索者か?苦しんでいるならなんとかしてあげたいね。出来るかどうか分からないけど、可能性があるならやってみようかな。もし呪いを解くことが出来れば今後の僕達の探索でも安心できるからね」

「じゃあ七月一日に依頼を受けるわよ」


 《カラフルワールド》には、京都にあるダンジョンを調べるように指示した。《千紫万紅》には、ダンジョンの位置を考えて拠点にする家を探すように指示した。僕は呪いについて勉強しようと思う。


 クラン《花鳥風月》は七月に向けて動き出した。




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