第55話 家族旅行・二日目(前編)
皆生温泉の宿を出て二分も歩くと海岸に出る。まずはそこで海を眺めながらストレッチをし、その後ランニングに移る。ランニングコースはサイクリングロードを弓ヶ浜公園を超えたところまで行って往復十二キロメートルだ。いつものランニングと違い景色が良い、白い砂浜、緑の松林、目に優しい風景を楽しむ。その後にもう一度海岸で青い海を眺めながら、気持ち良く筋トレと最後のストレッチをする。刀を振るのはダンジョンまで取っておくことにする。満足なトレーニングをした後に温泉が待っているなんて贅沢なことこの上ない。温泉で汗を流した後に朝食を食べて、ダンジョンの準備をした。
宿でバトルスーツに着替えて綾芽と一緒にダンジョンへと向かう。ダンジョンはこの宿から歩いて八分、海岸を西に進むとすぐに見えてくる。
探索者センターで入場の手続きをおこなうが、朝の早い時間だからなのか、あるいはお盆だからなのか分からないが、人が余りいないようだ。スムーズに手続きが終わりダンジョンへと向かうことが出来た。いつものように外側に設けられた扉を探索者証を通してくぐり、綾芽とパーティ登録をしてから転移の柱に手を当てて一階層に転移する。
転移した先はセーフティーゾーンになっている、ここで綾芽にこのダンジョンについて確認をしておく。
この皆生温泉ダンジョンは海ダンジョンと呼ばれているDランクダンジョンだ。海ダンジョンといっても海の中で戦闘することはなく、海沿いに海岸が続いていてその海岸を進んだ先に次の階層へと繋がる階段が出て来る。一階層から五階層までに出て来る魔物は、海水を猛烈な勢いで吹き出して来る海スライムと硬い二枚の殻で挟み込んで来る二枚貝のビッグシェルだ。このダンジョンも倉敷ダンジョンと同じく食材を得ることが出来る食材ダンジョンである。ここはビッグシェルにしっかりとドロップさせたいところだ。
「今日は十六階層以降のカニを倒してドロップアイテムを獲得したい。余り低階層で時間はかけられないから最初から全力で行くぞ」
「でも見た感じスライムが海岸を埋め尽くしているね、そこを突破しないといけないね」
「吉備路ダンジョン群のスライムより動きも速いし、攻撃力も上がっているが倒し方は同じだ。核をしっかり狙って攻撃するぞ。貝は外の殻は硬いからな、挟み込むために開いたところを狙っていくようにな」
「分かったよ、お兄ちゃん!」
別に綾芽と連携して攻略するような階層でもないので少し離れて自由に動き回れるようにする。綾芽はいつも通り豪快に槍を振り回してパワー勝負である。僕の言ったことは参考にしているのかな?まあ、ビッグシェルにパワー勝負が通用するほど【腕力強化】のリストバンドに【身体強化】のスキルを上乗せした破壊力は凄いけどね。
こちらも負けていられない、海スライムの核とビッグシェルが攻撃しようと貝殻を開いたところに刀を一閃していく。ドロップアイテムを拾うのも一苦労で、小さな魔石とハマグリ位の大きさの二枚貝が落ちている。流石にビッグシェルの大きさのままではドロップしないよね。
綾芽のスピードに合わせて六階層の転移の柱に到着した。登録を済ませた後にセーフティーゾーンで休憩をしながら六階層から十階層の確認をする。
「ここからは砂の中からサンドシュリンプという魔物が攻撃を仕掛けて来る。海スライムとビッグシェルだけに気をつけていてはダメだからな。視野を広くして何処から攻撃をされても対処できるようにしていこう」
「了解だよ、お兄ちゃん!」
最初は突然現れるサンドシュリンプに戸惑うこともあったが、慣れてくると土の盛り上がりにすぐに気づくようになる。魔石と貝とエビを拾いながら十一階層に辿り着いた。
転移の柱に登録してセーフティーゾーンでお昼御飯を食べながら次の十五階層までの確認をする。お昼御飯は勿論腕輪に収納してあるお弁当を食べる。僕がオークカツ弁当で綾芽はいつものラッシュボアのステーキ弁当にした。
「ここからは海の中からもトビウーオという魔物が攻撃を仕掛けて来る。ここからは二人で連携して攻略をしていくことにするよ。僕が海スライムに火魔法を撃ちながらトビウーオは受け持つから、綾芽には海岸側の討伐をお願いするよ」
「じゃあ私は貝とエビとスライムをやっつけていけば良いんだね」
「ああ、近くで戦闘するからお互いの位置に気をつけておくようにしような」
僕は刀から棍棒に持ち替えてトビウーオの攻撃に備える。最初のうちは単発で飛び掛かって来るのを棍棒で余裕を持ってはじき飛ばしていたが、階層が進むに連れて一度に襲ってくるトビウーオの数が増えてきた。両手に棍棒を持ち叩き落としていく、足元は綾芽にお任せ状態になった。相変わらずドロップアイテムを拾うのに苦労をしながら十六階層に到達し転移の柱に登録をした。
「ここからが今日の本番で、そして綾芽に期待しているからな。ビッグクラブが出て来るがとにかく硬いらしい。僕だと討伐するまでにかなり時間が掛かると思うが、綾芽の【腕力強化】のリストバンドに【身体強化】のスキルを上乗せした攻撃ならいける筈だ。硬い殻さえ突破すれば氷魔法で仕留められる、とにかく全力で突いてくれ!」
「うん、頑張るよ。お母さんの為にもカニをいっぱい持ち帰りたいね!」
この階層からは探索者の数が増えている。皆カニ目当てなんだろうね。昨日の食べ物屋や直売センターでの値段が他と大きく違ったから、多分買取り金額も良いのだろう。でも、人が多い分海スライムの数が少なく攻略はしやすくなったぞ。こちらも負けていられない、カニを見つけて突撃する。僕は主にトビウーオを警戒しながら海スライム、ビッグシェル、サンドシュリンプにも攻撃を加えて綾芽を援護する。
綾芽は全力でビッグクラブに槍突き立てる。狙い通り一撃で硬い殻を突破し氷魔法で止めを刺した。ビッグクラブが黒い靄になり消えた後には大きなカニの足が四本ドロップしていた。ちょっとサイズが大きすぎるような気もするけどまだまだ足りない。素早く収納して、次の獲物に向かって駆け出していく。
結局二十階層まで攻略し、大量のカニの足とカニミソをゲットすることが出来た。綾芽の攻撃力はいつ見ても凄まじい。その代わりに魔力枯渇になり魔力ポーションは飲んでいたけどね。お疲れ様でした。
その後二十一階層の転移の柱に登録してから、ドロップアイテムをリュックに詰め替えてダンジョンの外に転移した。
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