第54話 家族旅行・一日目

 火曜日は朝の鍛練はおこなったが、その後は明日からの家族旅行に向けての準備や確認をして一日が終わった。


 今回の旅行は電車とバス、そしてタクシーを使って移動しようと計画していたが、綾芽からの一言で大きく良い方向へ変更になった。


「お兄ちゃん、車って収納して持って行けるんじゃないの?」


 僕の腕輪は触っていれば収納できる。流石非常識の塊……ケホン、ゴホン……柔らかい発想をする綾芽である、僕では思いつかない考えが移動時間を短く、行動範囲を広くしてくれた。車はあっさりと収納できてしまったんだよ。ただ、運転手という問題は残ったんだけどね。


「麟瞳、これを収納しておいてね」


 父さんからキンキンに冷えた12本のビールが渡されたのは車が収納できるのを試す前であった。母上、運転頑張ってください。


 父さんと母さんの大きな荷物はすべて僕の収納に納めたので、父さんは手ぶらで母さんも小さなバッグだけを持って移動できる。綾芽のものは当然自分のマジックポーチに収納しているのでこちらも身軽だ。収納道具はダンジョン以外でも大活躍だね。

 

 明日は朝早く家を出て電車に乗る。家族全員が晩御飯を食べた後はいつもより早めに風呂に入って明日に備えた。良い旅行になりますように。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今回の旅行は朝の七時頃の電車に乗り倉敷駅へ、そこで特急電車に乗り換えて米子駅まで行く。更に乗り換えて普通電車で境港駅まで約三時間半の電車の旅から始まる。


 いきなりホームで反復横飛びを披露しようとする父さんの暴走から始まった旅はどうなることやら、不安もあるが楽しみはもっと大きい。では出発しましょう!因みに父さんは僕がプレゼントした靴の効果を皆に見せたかったらしい。父さんの靴は僕が最初に岡山ダンジョンで手に入れたマジックアイテムの一つだ。プレゼントするときに少しというワードは入れずに紹介したような記憶がある。朝から飲んで酔っ払っていた訳ではないので悪しからず。


 倉敷駅まではいつも行っているので、すぐに到着するのは分かっている。その後の米子駅までの特急電車が約二時間、ここが長い。父さんは一本飲んで早々に寝てしまった。計画では時間つぶしに何をしようかと悩んでいたが、残った三人で話をしているとあっという間に米子駅に着いてしまった。お弁当を初めとした料理の話題や僕の普段のダンジョンでの活動、綾芽達の月木以外の活動など話していたよ。


 終点なので慌てる必要はないが父さんを起こすのに一苦労、本人は倉敷駅から『どこ○もドア』で一瞬で移動したようなものだろうな。早々に夢の中に入っていったからね。


 更に電車を乗り換えて境港駅まで約五十分だ。あの有名な妖怪が大きくペイントされた電車に乗り込んだ。またもや父さんは一瞬で『どこで〇ドア』を発動する。移動時間をどうしようとか気にしなくて良いね、本当に羨ましいよ。


 僕達はまずどのお店でお昼御飯を食べるのかで盛り上がった。美味しそうなお店が目白押しで目移りする。境港は母さんを喜ばせたくて旅行のプランに入れたのだから、ここは母さんに決めてもらった。さあ、早く着かないかな、待ち遠しいよ。


 駅に着き父さんを起こすと呑気に欠伸をしているよ。駅舎を出ると有名な妖怪の銅像が迎えてくれる。その妖怪達に見送られて車が出せるところを見つける為に駅から離れていく。ここなら大丈夫かな?


「じゃあ車を出すよ。危ないから離れていてね」


 なんか不思議だね、何もないところから急に出て来るってね。


 次に座席を決めるので揉めてしまった。運転手の母さんが助手席に酔っ払いは要らないと言う。俺は酔っていないぞと言い張る父さんが反復横飛びを披露しようとするのを止めて、助手席に僕が座ることで納得してもらった。母さんも飲みたいのかな?申し訳ないが夜まで我慢してもらおう。


 まずは電車の中で決めたお昼御飯を食べるお店に移動する。十一時開店だから開店前のちょうど良い時間に着けそうだ。カーナビって便利だよね、知らない土地でも迷わずに着けたよ。お店の前には程よく行列が出来ているし、並んで順番を待ちましょう。


 開店と同時に人が動き出した。何とかギリギリ座ることが出来てラッキーだ。お品書きを見て注文を決めるが、この時期でもカニって食べられるのかな?先ほど見た情報には載っていなかったはずだけどね。


「すみません、このカニの料理って今日でも食べられるんですか?」

「ええ、新鮮なダンジョン産のカニを仕入れ出来たからね、大丈夫ですよ。品切れになると終わりです。嬉しいことに、とても美味しいと評判になってますよ」


 店員さんの言葉を聞くと納得したが、貴重な食材なのか値段が飛び抜けて高くなっている。


「ダンジョン産のカニって、麟瞳と綾芽が明日行くダンジョンのことを言っているのかい?」

「うん、情報ではダンジョンのドロップアイテムの中に入っていたよ。でもなかなかドロップしないって書いてあったからこの値段になるんだろうね」

「明日のお土産期待してるから、でも無茶はしないように、でも期待しているからね」


 二度も期待していると言われちゃったよ、ハードルが一気に上がってしまったね。明日はDランクダンジョンに行って出来るだけ攻略する予定だったが、カニが出て来る十六階層より深く探索しないといけないようだ。


 そんなことを考えている場合ではなく、今は注文を決めることに集中しよう。ダンジョン産の海鮮が入っていない海鮮丼に決めた。ダンジョン産の海鮮は自分で獲って味見をすることにした。その方がやる気も出そうだし、母さんの為にもゲットしたいところだ。


 一人だけ刺身定食にビールという注文をしたが、他の三人は海鮮丼に決まった。一品料理のお魚の煮付けも追加で注文をして、店員さんが運んできてくれるのを待つ。


 届けられた海鮮丼は期待に違わず、丼の中に魚、エビ、イカ、イクラなどが芸術的に盛られている。見た目で既に美味しいのだ、更に食べても当然美味しかった。海鮮丼のタレが少し甘味があって酢飯と良く合う、持ち帰り出来ないのが残念で仕方ない。お魚の煮付けも四人でシェアして食べた。家で作るものより上品な味付けがされていて、たまにはこういうのも良いかなと思う。個人的には母さんの味付けの方が美味しいと思うがこれも人によって好みは違うんだろうな。


 食事に満足した後は車でお魚の直売センターに移動する。


 直売センターでもダンジョン産の海鮮を扱うお店があった。お値段も他の店よりお高いが、もう品物は余り残っていない。


「ねえ、おじさん、もうこれだけしか売ってないの?」

「ああ、お盆休みでいつもより人が多いから、人気のある物はすぐに売り切れたよ。カニなんかあっという間だよ、欲しいなら朝一で並ぶか運よく仕入れた時にいるかだな」

「ありがとう、教えてくれて」


 もともとダンジョン産の海鮮を買うつもりはなかったが、明日に向けての意気込みがアップしたよ。


 他の店で白イカやマグロなどを購入した。冬に海で取れるカニを購入しに来たいが、次にいつ来られるかわからないしね。購入した物の半分はお刺身にしてもらった。お魚センターを出て車に乗ってから、いつものように腕輪に収納をした。こうしておけばいつでも新鮮なお刺身を食べられる。本当に贅沢だよね。


 その後は境港駅付近を観光するのかと両親に尋ねると、旅館でゆっくりしたいと言うので、そのまま皆生温泉の旅館に車で向かった。


 旅館は大部屋の一部屋で、家族全員で寝ることになる。何年ぶりだろうね、多分僕が小学生の時以来だよ。両親は早速温泉に向かい、僕と綾芽は旅館の目の前に広がる海を眺めながら海岸沿いのサイクリングロードを走った。体を動かしておきたかったんだよね。運動後にゆっくりと露天風呂に浸かり温泉を堪能した。ここの温泉は健康と美肌を作ってくれるらしい、僕が美肌になって誰得なんだろうね。皆で温泉に満足してから宿ご自慢の夕食をいただき、布団を敷いてもらって寝たよ。こうして楽しかった旅行一日目が終わった。おやすみなさい。




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