第53話 ビッグボア戦と真琴の誕生日

 月曜日は《桜花の誓い》と一緒に倉敷ダンジョンを探索する日だ。しかも今日はビッグボアにチャレンジする日である。今日の攻略で《桜花の誓い》はお盆休みに入るので、ビッグボアを討伐して気持ち良く休めるようにしたいものだ。


 いつものように探索者センターの前で全員が合流し、着替えを済ませて入場の手続きを終わらせた。その後、練習場でストレッチをしながら今日の課題を確認した。


「いい、焦らず少しずつ削っていくこと。無理せず、集中力を切らさずに魔石に変わるまで油断しないこと。頑張っていくよ」


 パーティリーダーの綾芽が声をかけて攻略開始である。ダンジョンゲートの前でパーティ登録をして、転移の柱に六人で触れる。よし、十一階層に転移だ。いつものように、ここから始めよう。


 十一階層から十五階層まではウルフエリア、セーフティーゾーンでウルフ戦のフォーメーションを確認し《桜花の誓い》の探索が始まった。僕は十五階層までは同じ階層にいても別行動で、出来るだけ多くのウルフを討伐して買取り金額の増額に助力する。魔法も飛ぶ斬撃も駆使して魔石、肉、毛皮、角をどんどん回収していく。


 十六階層のセーフティーゾーンで水分補給をおこないボア戦へと切り替える。ここからは僕も合流するが、ビッグボア戦以外は手は出さない。五人の力だけで出来ることには手を出してはいけないと決めている。


 スモールボア戦から順調な滑りだし、ラッシュボア戦も問題なく進む。最初に手こずったワイルドボアも安定して討伐出来るようになった。


 十六階層を越え、十七階層に到達した。十七階層を奥へと進んで行くと視界に巨大なビッグボアが見える。これを最初のターゲットに決めた。


 まずは真琴が急所の目を狙い一射入れる。残念ながら目を射抜くことは出来ず、ビッグボアが巨大な身体で猛突進してくる。


「「えい!」」


 最初にボアを躱しざまに綾芽と遥の槍がビッグボアの足元を掬うと、そこで僕の予想とは違うことが起きた。一撃でビッグボアの動きが止まってしまったのだ。


「………遥、止めを刺してくれ。綾芽、今のは【身体強化】のスキルを使ったのか?」


「うんそうだよ、びっくりしたね。今までこんなに威力なかったと思うんだけど」


 【腕力強化】のリストバンドを着けて【身体強化】のスキルを発動させた効果だろうか?恐ろしいほどの高火力である。もともと僕よりも強いとは思っていたが、更に装備で上乗せされた力は大きく予想を上回っていた。不壊の槍の威力も後押ししているだろう。五人の力だけでの討伐だが、綾芽の力だけに頼った方法だったので口を出させてもらう。


「今日は綾芽には止めを刺すことだけをしてもらおうか。僕が代わりにアタッカーとして入るよ。普通は簡単にビッグボアの動きを止めることは出来ないからね、皆には少しずつ削っていく方法も体験してほしい。一度に二頭に襲われた時の予行演習だと思ってくれ」


 最初の一撃の効果なのか、綾芽を除く四人は臆することなくビッグボアに向かっていくことが出来た。僕を入れた五人で確実にそして少しずつビッグボアの体力を削って動きを止めることが出来るようになった。そこに綾芽の氷魔法の止めが入る。何頭か討伐して二つの肉を確保したところで今日の探索を終わりにした。


 当然二つの肉を確保したのは一つの肉を半分に分けて、僕と綾芽以外のメンバーがお土産として持ち帰るためだ。明日からお盆休みで帰省するからね。僕はこの前の正輝と完全攻略したときの肉がまだまだ残っているから必要ない。


 十六階層に戻り、転移の柱からダンジョンの外へと転移する。まずはいつも通り武具店で武器のチェックと矢の補充をおこないパーティカードで清算をした。その後は部屋でドロップアイテムの買取りをしてもらい、すべての処理を終らせダンジョンを後にした。


 いつもの反省会の為にファミレスに移動し、ドリンクバーを注文してそれぞれが好きなドリンクを選んで席に着くと、店員さんがケーキを運んできた。


「「「「Happy birthday to you~」」」」


 誕生日の歌が始まった。何も聞いてないよ~、僕にも一応流れを教えていてほしかったね。これでも歌には自信があるんだ、全力で真琴の為に歌ったよ。

  

 流石に電気を消すことはなかったが、明るい中でも真琴がロウソクの火を一息で消した。周りのお客さん達も拍手で祝福してくれた。ありがとうございます。


「皆ありがとう。皆に頼りにされるプロの探索者になるからね、これからも一緒に頑張っていこうね」


 ここで綾芽が代表してプレゼントを渡した。例の弓である。


「本当は土曜日に皆で得た宝箱からプレゼントするつもりだったんだけどダメだったから、今回はお兄ちゃんに無理言っちゃった。気持ちだけは皆からのプレゼントだよ。命中率アップの効果があるから、更に真琴の腕前が上がっちゃうね。頼りにしているよ」


 これには真琴だけでなく他の三人も驚いていた。妹よ、事前の説明は真琴以外のメンバーにちゃんとするようにしろよ。真琴からはすごく感謝されて、変に照れてしまった。


 それからは少し興奮気味に、今日の反省と休み明けの旅行についての確認をしてファミレスを後にした。これから一週間のお盆休みだ。再会を楽しみにして綾芽達五人は別れて行った。








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