第56話 家族旅行・二日目(後編)
ダンジョンを攻略するのに結構時間が掛かってしまった。急いで探索者センターに行き買取り受付へと向かう。程なく呼ばれて受付窓口に行き、大量のドロップアイテムをカゴの中に入れていく。受付嬢もビックリの量だったのだろう、目が大きく見開かれている。
「魔石以外は全部持ち帰りますのでよろしくお願いします」
しばらく待ってから呼ばれたが、窓口に行くと部屋に案内される。鳥取県でも対応は一緒なんだね。今回はドロップアイテムの多さの理由の為であろうか?
「お呼び立てして申し訳ありません。私は支部長の
名刺を渡されソファーに腰掛ける。
「いきなりで申し訳ありませんが、ドロップアイテムを少し買い取らせていただく訳には行きませんか?」
「ええっと、僕達は食材を持ち帰るために今日のダンジョンを攻略してきたので、全部持って帰りたいんです。それに十六階層からは沢山の探索者がいたからこの後買取りに現れるんじゃないんですかね」
「あんなに立派なカニの足は、今までこのダンジョンで見たことありません。是非沢山の人に食べていただきたいと思います。何とかなりませんか?」
買い取らせてくれとは僕の予想外である。どうしたものかと思い、綾芽とどう対応するのかを相談をした。
「やっぱり持って帰ります。楽しみにしている家族もいますので」
渋々という感じで阿久井さんも折れてくれて、すべての食材を持って帰ることになった。魔石だけ買取ってもらったが、まあまあの稼ぎにはなったようだ。海スライムの数がハンパなかったからね。いつも通りカードに綾芽と二人で二等分して入金してもらい、武器の封印をしてもらった。
最後に持ち帰るドロップアイテムを受け取って帰るだけなのだが、そこでおかしなことが起こった。戻ってきたドロップアイテムを見ていると物凄い違和感を感じる。直感的に提出したものよりも減少しているのが分かるのだ。
「すみません、提出したものよりも減っているんですがどうしてですか?」
「いいえ、これで全部ですよ。何か勘違いをしているのではないですか?」
「本当にこれだけなんですか?後悔しても知りませんよ」
戻ってきたドロップアイテムをしっかりとヘルメットのカメラに映してから収納して宿へと帰った。綾芽には分からないようだが、間違いないと僕の心が言っているんだ。
旅館に戻り温泉に入りながら今後の対応を考えたが、やることは一つしか思いつかない。温泉から出て僕達の味方になってくれる人に連絡を取った。
「龍泉麟瞳と言うものですが、いつもお世話になっています。支部長の中里さんはいらっしゃいますか?」
岡山ダンジョンに連絡を入れて、中里さんを呼び出してもらった。もしもお休みなら、倉敷ダンジョンの村上さん、それでもダメなら吉備路ダンジョン群の西湖さんと思い連絡を取ると一人目で繋がった。
「中里です。龍泉様、お久しぶりです。今日はどうされましたか?」
「すみません、突然お電話させていただいて。今、家族旅行で鳥取県の皆生温泉に来ているんですが、そこのダンジョンセンターで理不尽な目に遭いまして、どうすればいいか分からずに中里さんを頼ってしまいました」
「その理不尽な目というのは、どういう目に遭ったのですか?」
「提出したドロップアイテムを持ち帰ろうとしたところ、明らかに提出したものよりも減っているんです。ここの探索者センターは信用できませんから僕が何を言ってもダメだと思います。何とかなりませんか?一応ドロップアイテムを提出するときの映像と持ち帰りで受け取るときの映像を見比べれば大きいカニは証明できると思うんですが」
中里さんはなんとかするから任せてほしいと言ってくれた。僕には普通に旅行を楽しんで欲しいと、解決したときに連絡を入れてくれると約束をしてくれた。明日の夕方には岡山に帰っていることを伝えて電話を切った。
綾芽に今日の探索者センターでの出来事を説明して、更に岡山ダンジョンの中里さんが僕達に協力してくれるから心配ないことを伝えた。折角の家族旅行なんだから楽しまないともったいないよね。母さんにカニを確保したことを伝えると、僕と綾芽をとても褒めてくれたよ。夕食は家族揃って食べながら、明日の予定を確認する。
明日は九時にチェックアウトして車で大山のビール工場に向かい、十時から見学と試飲と買い物をして、そのままランチを食べて米子に戻ることを確認した。ビール工場に到着したときに車はこっそり収納するので母さんもしっかり試飲してねと言うと喜んでいた。母上、ビールはそんなに飲まなかったよね?
夕食を美味しく食べた後、テレビを見ながら話をしたり、もう一度温泉に浸かったりして家族旅行最後の夜を過ごした。布団を敷いてもらって、布団に潜り込んで寝る前にステータスをチェックする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ランク:A
名 前:龍泉 麟瞳
スキル:点滴穿石 剣刀術 豪運 全探知 罠解除 火魔法
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回ははっきりとスキルを得たことを感じ取った。実際にはまたスキルの進化が起こったようで、【罠探知】が【全探知】に変わっていたようだ。【罠探知】のスキルは宝箱を開けるときに使ってはいるが、進化するほど使い込んでいる訳ではない。でも何となくだがスキルの進化が僕を護ってくれているのを感じる。【点滴穿石】のおかげなのか、それとも別の何かが働いているのかは分からないがとても心強い。
お世話になっている人達にお礼をしないといけないなと思いながらいつのまにか眠っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます