第41話 襲撃

「お兄ちゃん、今日はどうするの。日曜日だからダンジョンには入らないんでしょ」


 朝の鍛練後に綾芽が聞いてきた。


「今日は求人票の面談日を伝えるために岡山ダンジョンに行くから、ついでにダンジョンに入ってポーションも補充しておこうかと思っているよ」

「お兄ちゃんずるいよ。土日はダンジョンに入らないって言ってたよね」

「確かに言ったけど、今日伝えておかないと火曜日になるだろ。二日も遅れると申し込んだ人に悪くてね。しょうがないんだよ」


 それからも、ずっと「ずるい」を連呼してくる綾芽に根負けした。七年間の反動なのか、僕が家に帰って来てから、綾芽はかまってちゃんになってしまっているな。まあ僕としても塩対応されるより何百倍も嬉しいんだけどね。


「火曜日か水曜日に付き合うから今日のところは勘弁してくれ」

「しょうがないな~。この前とは別口だからね」

 

 どんどん綾芽との約束が貯まっていく。早く完済したいものだ。


「正輝さんとの攻略映像残しているんでしょ。それを貸してほしいな~、今日は暇だからじっくり見られるよ」


 綾芽にこの前コピーしたものを渡して、朝御飯を食べたあと岡山ダンジョンに向かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 岡山ダンジョンに着くといつもと違い人が多い。日曜日と学生の夏休みが重なっているからだろうか?着替えて受付に行くと順番待ちだ。


 番号が呼ばれて受付窓口に行く。このダンジョンの受付嬢とは顔なじみだ、質問してみる。


「今日は人が多くありませんか?何かあったんですか?」

「昨日も同じくらいの人が来てくれました。龍泉様のおかげです。ここでは詳しく言えないので、買取りの時に理由をお知らせします。買取りの受付もこちらで行いますのでよろしくお願いします」


 僕のおかげか、例のドロップアイテムの宣伝の事だろうな。武器ケースの封印の解除など必要な手続きを行い、ダミーのリュックも背負ってダンジョンの入口に向かう。


 これだけ人が多いと低階層だと混んでいそうだ。十一階層と十六階層で迷って、安全な十一階層を選んだ。転移の柱から十一階層に転移する。


 転移した先は十一階層のセーフティーゾーン、打ち合わせを行っている二組のパーティの邪魔にならないようにして攻略を開始する。ここから十五階層まではゴブリンアーチャーが一匹入っている五、六匹のゴブリンパーティが出て来る。


「あの~、ちょっと良いですか?」


 いきなり声をかけられた。打ち合わせをしていた片方のパーティが話しかけてきた。


「ここをソロで攻略するんですか?」

「そうです」

「危なくないんですか?ゴブリンが五匹以上一度に出て来るんですよ」

「そうですね、大丈夫です」


 何を言いたいのかさっぱり分からない。


「一緒に攻略をしませんか?私達四人パーティなんです」

「いや、目的もあるので一人が良いです。自信がないならやめておいた方が良いと思いますよ。ここからはゴブリンアーチャーがどのゴブリンパーティにも入ってきますから」


 自信が無いのなら、もっと低階層を探索すれば良いのに。まあ気を取り直して攻略を開始しよう。


 まず後衛のアーチャーに魔法で攻撃する。そこで倒せれば良いが、倒せなくても前衛のゴブリンに近づいて飛ぶ斬撃を放つ。アーチャーが倒せていないようならもう一度魔法を撃つ。あとは近接戦闘と斬撃を飛ばす攻撃で倒していく。このような流れで前よりもずっと楽に倒せるようになった。魔法と飛ぶ斬撃は戦略を大きく広げてくれた。あれだけ苦心していたソロの攻略も嘘のように道が開けた。


 どんどんゴブリンパーティと戦って練度を上げていく。戦闘中の人達もよく見かけるので攻略コースも考えながら進んでいかないといけない。


 十五階層のボス部屋の前に到着した。順番待ちのパーティが四組もいる。今更戻れないので大人しく列に並ぶ。


 僕の二つ前に並んでいるパーティが如何に勇敢に戦闘してきたかを大声で自慢している。小学生のマウント取りの行動と一緒である。


「俺は槍の一撃でファイターを倒した」

「俺は三匹のゴブリンの攻撃を受けてもブロックしきった」

「俺はアーチャーの頭を一撃で貫いた」

 

 俺は、俺はと五月蝿い。自分の自慢ばかりする奴ほどパーティ戦で信用できない。周りの仲間を理解して連携しろよ。個人の力だけで出来ないところをカバーしていかないと、何の為のパーティだ。


 一パーティで15分から25分くらい掛かるだろうか、なかなか進まない。やっとあと前に一組というところまできた。

 

「おいお前、順番を代われ!」


 いきなり肩を掴まれて声をかけられた。ガラの悪そうな五人組のパーティだ。


「おい、聞こえないのか。順番を代われと言ってるんだよ」

「お前達、ダンジョン法は知ってるんだよな」


 僕の後ろにも三組のパーティが並んでるが、その後から横入りをしてきたようだ。


「お前、俺達に勝てると思っているのか。痛い目をみるぞ」

「それは僕を脅しているのか?」

「僕って何処のお坊ちゃまだよ。怪我をする前にそこを退け」

「断る!」


 武器に手を添えてきたところで、右手にファイヤーボールを浮かべて警告する。


「暴力を振るうようなら手加減はできないからな」


 何人かは向かって来そうだったが、目の前の奴はファイヤーボールの火を見てビビっている。悪態をつきながら離れて行った。


 前のパーティはボス部屋に入り、後に並んでいたパーティも遠巻きに見ていたようだ。僕は何事も無かったかのように順番を待ち、後のパーティも並び直す。早くボス部屋が開かないかな、何だか気まずい。


 扉が開いた。急いでボス部屋に入ろうとすると躓いてしまった。その時後から矢が飛んで来て僕を掠めた。慌ててボス部屋に走り込んだ。


 ボス部屋に入り切ると扉が閉まる。扉が閉まる事をありがたいと思ったのは初めてだ。八匹のゴブリンパーティが待ち構えている。心臓の音がまだ五月蝿い。手は震えているが、戦闘は待ってくれない。アーチャーに向けてファイヤーボールを繰り出す。とにかく今はゴブリンを近づけたくないので、ファイヤーボールを連発する。魔力回復の指輪のおかげだろうか?魔力枯渇になることもなく魔法だけで倒しきった。


 ドロップアイテムを急いで拾い宝箱の中の物も一瞬で収納し、十六階層の転移の柱からダンジョンの外へ出る。出た後は受付を目指し駆け出した。受付で事の次第を話し、部屋へと移動する。やっと少し落ち着いてきた。


 すぐに中里さんがやって来た。今日は常盤さんはお休みのようで一人だ。受付で話した内容を詳しく話し、映像も繋いで確認した。中里さんの手配で警察にも連絡をして、五人パーティは指名手配された。


 ダンジョンを出て来たところで五人は逮捕されたらしい。ホッと一安心だ。


 そのあとも警察の人に映像を見せながら説明をしていく。僕の装備しているカメラは360度カバーしているので後方を映すカメラが矢を射る瞬間を捉えていた。映像はコピーして証拠として提出した。


 すべてが終わったのは夜の十一時、タクシーで家に帰った。

 




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