第42話 昨日の買取りなど

 母さんに夕方に電話して、ダンジョン内で襲撃を受けた事で家に帰るのが遅くなることと、綾芽に明日のダンジョンには一緒に行けないことを伝えてほしいと連絡しておいた。


 三人とも夜遅くまで起きて、僕の帰りを待ってくれていた。


 僕に身体的な被害が無いことと、犯人が既に逮捕されていることを伝えると安心したのかやっとそれぞれの部屋に戻った。僕もお風呂に入って寝ようとしたが、まだ興奮しているのかなかなか寝付けなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 朝の九時に目覚めた。父さんは出勤して不在だが、綾芽はダンジョンに行かずに家にいた。


「お兄ちゃん、おはよう」

「おはよう。今日は悪かったな、明日か明後日にでも変更できるか?」

「もう大丈夫なの?」

「ああ大丈夫だ。別に身体を傷つけられたわけでは無いからな」

「良かったよ。お母さんから話を聞いたときは心配でしょうがなかったよ」


 母さんが朝御飯の用意をしてくれた。


「麟瞳、今日はどうするんだい?」

「今日は岡山ダンジョンに行ってくるよ」

「まさかお兄ちゃん、今日もダンジョンに入るの?」

「いや、今日は入らないよ。昨日のドロップアイテムも提出してないし、求人票の面談日も伝えてないから行ってくるんだよ」

「じゃあ私がボディーガードとして付いていくよ」


 何だか可愛いボディーガードが僕を守ってくれるらしい。食事後ゆっくりとアイスコーヒーを飲んでから、岡山ダンジョンに向かった。


 十一時頃にダンジョンに到着した。昨日ほどではないが人は多く、昨日の事件のせいかテレビのカメラもちらほら見える。私服のまま受付へと向かい、整理券を取って順番を待った。


 順番が来て受付窓口に行くとすぐに部屋へと案内された。綾芽は周りが気になるのかキョロキョロしている。


 しばらくすると、注文した飲み物を持った常盤さんと中里さんが部屋に入ってきた。


「昨日はすみませんでした。あれから無事に帰宅出来ましたか」

「別に中里さんが謝ることはないですよ。タクシーで無事に帰りました。心配をおかけしてすみません」

「当ダンジョンで起こったことは支部長の私に責任があります。本当に申し訳ありませんでした」

「じゃあ謝罪を受け取ります。これで終わりにしましょう」


 とりあえず朝から二杯目のアイスコーヒーを飲んで一息入れる。因みに綾芽はオレンジジュースを飲んでいる。


「昨日の五人はどうなるんですか?」

「探索者資格の永久剥奪は決まりました。後は警察の捜査によりますが、矢を射た者はダンジョン法の殺人未遂で確定だと思います。映像を見る限り他の四人も殺人未遂の共犯になると思います。矢を射るのを止めてないですからね。でも本当に映像が残っていて良かったです。言い逃れ出来ませんからね」

「言い逃れしたんですか?」

「ええ、脅迫もしてないし、矢なんか射るはずがないって。ヘルメットの奴も周りの皆も嘘を付いていると初めは言ってたんですが、証拠があると言ったら当てる気は無かったと言っているようです」

「ヘルメット高くても買って良かったです」


 そうそう、今日は別のことがメインで来たんだった。


「今日は求人票の面談日を伝えるのと、昨日の買取りをしてもらおうと思って来たんです」


 目的を告げると常盤さんが用意のために部屋を出て行った。


「面談日ですが、八月の第一金曜日でお願いします。申込者の都合が悪いときには教えてください。また考えます」

「八月の第一金曜日ですね、すぐに連絡をしておきます。今のところ申込者は三名です。まだ増えるかも知れませんよ。今このダンジョンの探索者は激増してますから」

「マナーが悪い探索者が多いですよ。気をつけておいた方が良いと思います」

「マナーが悪いとはどんな人ですか」

「ダンジョンの中でパーティに入らないかと勧誘されました。それとボス部屋の前で大きい声で自慢話をしている人達ですね。出来て当たり前のことを自慢してますからね。力が足りていないのに探索している人が増えているんでしょうね。怪我人が増えるか、最悪死人が出るかも知れませんよ」

「怪我人は確かに増えていますね。学生が夏休みになって、ここの探索者が増えているからだと思ってました。気をつけておきます」

「昨日受付で増えている理由を聞いたら、後で教えてくれるって言ってましたけど理由は何ですか?」

「低階層のボス部屋からもマジックアイテムが出ている事ですね。龍泉様以外からもたまに出て来るんですよ」


予想通りの理由だった。常盤さんが戻ってきたので買取りをしてもらおう。いつも通りカゴの中に昨日のドロップアイテムを入れていく。魔石と棍棒と弓とポーションそして宝箱の中に入っていた物だ。出してみて分かったが宝箱の中はポーションと槍が入っていたようだ。


 常盤さんは今度は鑑定のためにドロップアイテムと一緒に部屋を出て行く。


「私の宣伝の仕方が良くなかったのでしょうか?」


 先ほどの話にもどっている。中里さんが責任を感じているのだろうか。


「マジックアイテムの値段とかで煽った訳ではないんでしょ?探索者は良くも悪くも自己責任ですよ。他人に迷惑をかけなければどうなってもしょうがないと思います。マジックアイテム欲しさに身の丈以上の事にチャレンジすることもです。他人に迷惑をかければ厳しく処罰してほしいですけどね」


 常盤さんが戻ってきた。内訳書を渡してくれて話し出す。


「では魔石からです。ゴブリンが一個100円で107個で10,700円です。ゴブリンファイターが一個150円で52個で7,800円です。ゴブリンアーチャーとゴブリンソードマンが一個200円で33個で6,600円です。魔石の合計額が25,100円になります。次に棍棒が一本100円で31本で3,100円で、弓が一張7,000円で6張で42,000円です。次に初級体力ポーションが一本2,000円で15本で30,000円、初級魔力ポーションが一本5,000円で6本で30,000円、中級体力ポーションが一本7,000円で5本で35,000円で中級魔力ポーションが一本10,000円で5本で50,000円です」


 やっぱりここのダンジョンはポーションが良いな。魔力ポーションもちゃんとドロップしている。今回はこれを狙って来たからな。


「次にマジックアイテムですが不壊と氷魔法が付与された槍です。買取り価格が七千万円です」

「魔力ポーションは初級と中級全部持って帰ります。マジックアイテムも持ち帰ります」


 手続きでまたまた常盤さんが出て行った。


「いやー、何度も驚かされます」

「ここのダンジョンとは相性が良いんですかね。他のダンジョンで入手するマジックアイテムとは違いすぎます。もう怖くなってきますね、ここまで来ちゃうと。何かあるんじゃあないかって思えてきます」

「今回は何色の宝箱だったんですか?」

「それが覚えてないんです。弓矢で狙われたのが怖くて、手が震えてて刀が持てないほどだったんで、全部魔法で倒したんですよ。で、全部倒したら早く出ないとまずいと思ってて、ドロップアイテムと宝箱の中の物を慌てて収納したんで色は覚えてないんです。槍もさっき出したときに初めて見ました。長いものという認識はありましたけど」

「すみません。嫌なことを思い出させてしまいましたね」

「昨日の映像に映ってはいると思いますが………」


 ちょうど良い時に常盤さんが戻って来た。


「よろしいでしょうか。買取り金額が合計で135,200円になります。そこから税金分の15パーセントを引いて114,920円になります。こちらが買取りの内訳です。よろしければサインをお願いします」

 

 サインをした後に、槍の武器ケースを買って登録するように手続きをお願いする。武器ケースの代金を先ほどの買取り金額から引いてもらうように伝え、探索者証を渡した。


 封印まで終わり、ポーションと武器ケースを収納してダンジョンを後にした。

 



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