第27話 どうしてこうなった

「今まで数人しかいないユニークギフトを持った人が、同じ学校の同じ学年に五人も集まるなんて、これは偶然ではなく必然だわ」


 和泉のこの言葉が切っ掛けとなり、入学後すぐに俺達五人は《百花繚乱》というパーティを組んだ。このパーティ名を考えたのも和泉だった。俺は五人全員が四字熟語ユニークギフト所持者だったから、パーティ名も四字熟語なのかと思っていたが、後から意味を聞くと優れた人物や業績が一時期にたくさん現れることをたとえているらしい。優れた人物って………意味を知って、俺と麟瞳の二人は顔を見合わた後にお互いに下を向いてしまった。なんだか恥ずかしかったことを覚えている。


 高校一年生の夏休みになる前に、初めてのダンジョンでの実習が行われる。その結果で探索者証が交付されるのを先生から聞いた。その話を聞いて以降、俺達五人は毎日学校の練習場に放課後集まり、自主訓練をするようになった。


 いよいよ七月十日のダンジョン実習に挑んだ。俺達五人は転移の柱の前でダンジョンカードを重ねてパーティ登録し、ドキドキしながら初めてダンジョンへの転移を経験した。


 転移した先のセーフティーゾーンで、五人で集まり最終確認をする。立ち会いの先生はいるが、基本的に見ているだけでダンジョンの中では自分達で考え行動することになっている。


「今日は自由に討伐するぞ。初めてのダンジョンを思いっきり楽しもう!」


 正直Fランクダンジョンの探索で俺達が苦戦するような魔物に出会うとは考えられなかった。これは決して慢心ではない。それぐらいこの日のために五人で訓練を積んできたのだ。


 洞窟型のFランクダンジョンの中は薄暗く、この日のために用意した光源を頼りに探索を開始した。魔物は全て小型で蜘蛛やカエル、そして足がたくさんある奴だ。和泉と心春は大丈夫かと思っていたが、要らぬ心配だったようだ。喜々として魔物に攻撃を加えていた。


 思っていた通り一時間もせずに最終五階層のボス部屋の前に着き、ジャンケンで悠希が一人でボス討伐をすることになり、アッサリと完全攻略を達成した。


 初めての宝箱は鉄、Fランクダンジョンの宝箱はそのほとんどが木の宝箱であると授業で聞いていたので、鉄の宝箱に皆で喜んだ。悠希が《百花繚乱》初の宝箱を開けると指輪が入っていた。いきなりのマジックアイテムの出現に俺達は盛り上がり、意気揚々とダンジョンの外に転移した。


 これが《百花繚乱》の初めてのダンジョン探索だった。


 早々に実習が終わってしまった俺達は、先生への報告後に今後の活動について話した。


「なんや、あっさりし過ぎやな。早うもっと手応えのあるとこにいこか」

「夏休みまではダンジョンに入ってはダメなのよ。悠希さんそれは無理ですわ」

「だったら、夏休みになる二十日にEランクダンジョン。そして二十一日にDランクダンジョンに挑戦ね。麟瞳、下調べよろしくね」

「心春、何で僕が下調べをするんだよ!」

「あなた、こういうの得意でしょ。悠希だと適当にしそうだし。よろしく!」

「何で悠希とだけ比べるんだよ!他に三人いるじゃないか」

「俺からもお願いするよ。手伝うからさ」

「そうなのか?じゃあ正輝が手伝っくれるんならやってみるよ。でも、今回だけだからな」


 実習時間が終わり、探索者証の交付に移った。《百花繚乱》の五人はEランクとして登録された探索者証を手にした。妙に誇らしかったのを今でも覚えている。その後、買取りの受付の仕方を順番に教えてもらいながら、その日のドロップアイテムを提出した。大量の魔石だけで約3万円の買取り金額だった。更に鑑定の結果、指輪は俊敏の効果のあるもので買取り価格が15万円だった。皆で話し合い指輪は心春が装備することにした。皆で手に入れたお金で豪遊するぞと言いながら食べ放題の焼肉屋に繰り出し腹一杯になるまで食べて、話をして楽しく過ごした。とにかく五人でいることが楽しかった。


 予定通り、夏休みになるとすぐにEランクダンジョンを一日で完全攻略し、次の日にはDランクダンジョンも一日で完全攻略してしまった。麟瞳がしっかりとマップで最短ルートを調べていたり、魔物の情報をミーティングで共有していたことが好結果に繋がったのだろう。


「俺達最強になるやろ」


 高校生時代に悠希はよくこの言葉を口にしていたが、誰も否定はしなかった。麟瞳だけはこの言葉を聞くと必ず下を向いていたが、和泉も心春もそして俺も一番になれると信じていた。


 高校を卒業しても《百花繚乱》は同じメンバーで活動を続け、Cランクダンジョンに挑戦するようになった。最初の探索で毎日十階層ずつ攻略していき、五日目に全五十階層のダンジョンを完全攻略した。俺達は全員Bランクに昇格し、次はBランクダンジョンに挑戦だと息巻いていた。これに異を唱えたのが麟瞳だった。


「今日は今までよりも良いマジックアイテムが出てきたよね。もう少しCランクダンジョンを探索して、力を付けながら装備も充実させた方が良いと思うんだ」


 確かにその日は買取り価格が一千万円の槍が銀色の宝箱から出てきて、悠希が装備することになった。麟瞳の言う通り、それから一年かけて全員の装備を充実させて行った。しかし、Cランクダンジョンの探索を続けていく中で俺以外の三人は、麟瞳に対して不満を持つようになった。


「何で戦闘出来へん奴と取り分が同じやねん」


 この言葉は悠希の言ったことだが、和泉と心春も同じように感じているようだった。ダンジョンの準備は全部麟瞳に任せていることもあり、その点を皆に言ったが、多数決ということで決まってしまった。


「麟瞳スマン。お前が俺らのために頑張ってくれているのは皆が分かっていると思うが、俺にリーダーシップがないためにこんなになってしまって」

「もうしょうがないよ。多数決は民主主義の基本だからね。でも、僕の取り分を半分にする代わりに残りの半分はパーティ費として蓄えていってほしいんだ。Bランクダンジョンからは情報を得るためにお金がかかる。将来のために必要だと思うんだ」

 

 麟瞳はいつも《百花繚乱》のことを考えて意見を言ってくれる。自分は犠牲になっても良いから、パーティが良くなるようにと言ってくれた。俺は一応パーティのリーダーだが、意見を口にするのが苦手だ。俺よりも麟瞳の方がよっぽどリーダーらしいと思った。


 それからは麟瞳と二人で外食をすることが多くなった。麟瞳はよくパーティのことを見ている。パーティのことについて聞くとなるほどと思うような意見を良くしてくれた。


 《百花繚乱》はその後も順調にダンジョンの探索を続けていった。初めてのBランクダンジョン完全攻略時の宝箱は金色で、不壊と火魔法が付与され更に炎の斬撃を飛ばすことができるという買取り価格が八千万円の剣を手に入れた。それから三年間Bランクダンジョンに入り続け、宝箱から手に入れたスキルオーブを使用し、俺は火魔法、和泉は水魔法、悠希と心春は風魔法を使えるようになった。もう一つ出ていればと思うが、残念ながら麟瞳に渡すことは叶わなかった。


「麟瞳、《百花繚乱》の戦い方を見てどう思う」


 流石にBランクダンジョンだと、今までのようには順調に攻略も進まなくなって来た時に、麟瞳に聞いてみた。


「《百花繚乱》はソロプレイヤーが四人と荷物持ちの僕が集まっているパーティだと思うよ。もっと連携していかないともっと厳しくなるよ。Bランクダンジョンなら、これからも何とかいけるかもしれないけど、Aランクダンジョンは危険だと思うよ」


 今になって思えば、あのころからAランクダンジョンの攻略に失敗することを想定していたのだろう。そして自腹で帰還石まで用意していてくれたんだと思う。


「もし連携するなら、俺はどう動けば良いんだろうか?」

「正輝は《百花繚乱》の中で力が飛び抜けているから、自由にすれば良いと思うよ。変に皆に合わせようとすると、逆にパーティの戦力が落ちかねない。

他の三人が連携できれば《百花繚乱》は強くなるよ。悠希が前衛でスピードで撹乱して、心春が後方から弓で射抜く。和泉は前衛も後衛もできるし、心春のカバーをしても良いし、悠希と一緒に前衛で戦っても良い。今はそれぞれがエースと思いながら、バラバラに向かって行くから無駄も多い。そこを連携しながら倒せるようになれば強くなると思うよ。まあ戦闘力のない僕から言われても聞く耳を持たないだろうけどね」


 その会話を今思い出している。


 どうしてこうなってしまったのだろう。麟瞳がパーティを抜けた後、二週間で六回Bランクダンジョンの探索を行った。一日に五階層進むというのは、Bランクダンジョンに挑戦しはじめてからずっと同じだ。


 今まで麟瞳に任せ切りだった準備は四人で手分けしたが、ダンジョンに入るとまずい点が浮き彫りになってくる。以前購入したダンジョンの情報は当然麟瞳に丸投げしていたので、今回新たに購入し悠希に任せた。まず困ったのが、マップを読むのが難しいことだ。自分達が何処を進んでいるのか分からないのだ。次の階層への階段に辿り着けないのは勿論のこと、罠が仕掛けられている場所も正確に把握できない。体感で五階層進むのにいつもの倍はかかるような精神的負担があった。更にドロップアイテムを拾うのも大変だ。俺が麟瞳からマジックバッグを譲り受けたが、入れるのが大変なのだ。どうやって背中にあるバッグに簡単に入れていたのだろう。いちいち背中から下ろしてからドロップアイテムを入れていたので結構大変であった。マジックバッグだからほとんど重さは感じないが、背中にリュックを背負いながら戦うのも違和感があった。そして一番困ったのがドロップアイテムが今までよりも圧倒的に少なくなったこと。今までの半分以下の買取り金額になってしまった。


「なんや、やる気が起こらんわ。何で魔石が落ちへんねん」

「Bランクダンジョンなのに、宝箱が鉄ってどういうこと?」

「麟瞳さんがいなくなってこうなったという事は、そういうことかしら?」


 悠希はやる気がなくなっているし、和泉の考えも確認しなくてはならない。次の週は休みにして麟瞳に会いに行こう。原因はそれしか考えられないがしっかりと確認しなくてはならない。そして今までのことを麟瞳に謝ろう。

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