第26話 龍泉麟瞳の探索履歴

 私は岡山県の支部長代表といっても大した権限を持っている訳ではない。探索者協会の本部に、龍泉様が初めて岡山ダンジョンに来られてからたった三日間で成し遂げた成果を元に、いかに探索者として突出した能力を秘めているのかを報告した。


 今後龍泉様を万全の態勢でバックアップできるようにするため、今までの龍泉様の探索履歴を閲覧させて欲しいと願い出た。普通はこの要望が通る事はないのかもしれないが、高ランクとは言えない岡山ダンジョンの低階層から銀色の宝箱が出現したこと、更に宝箱から見たこともないようなマジックアイテムを入手したこと、全ての魔物から魔石がドロップすること、ほとんど出現しなかった中級ポーションを三日間で十六本も買取りできたこと等驚くべき実績の数々により閲覧は特例として認められた。


 探索履歴とは、そのままの意味で探索者がダンジョンを探索したときの成果を各個人毎にまとめたものである。パーティを組んでいれば、そのパーティの情報やパーティとしての成果がそれぞれの探索者に記載されている。ほとんどがダンジョンから得たドロップアイテムによる買取り情報ばかりが残っているが、マジックアイテムやランクの昇格時期も記されている。探索履歴を見ればその個人の活動が大まかに分かる。龍泉様の今までの活動を知るために閲覧希望をしたのである。


 要望が通り、龍泉様の探索履歴を見させていただいたが、京都の探索者協会も龍泉様が所属していた《百花繚乱》というパーティを特別視しているのが伝わってくる内容であり、細かい所までしっかりと書かれていた。


 まず驚くのが、龍泉様は【点滴穿石】というユニークギフト所持者であり、しかも《百花繚乱》というパーティはメンバー五人が全てユニークギフト所持者であることだ。探索者証を交付する際、ギフトの登録は義務付けされている。ユニークギフト所持者はごく稀で今でも全国で五十人程しか存在していない。それが同じ学校の、同じ学年に五人である。類は友を呼ぶとはいうが、神様が何か操作しているのではないかと思われるほどの偶然であろう。


 ダンジョン法により、十八歳未満の者と高校生はDランクまでにしかなれないと決められている。そして全国のダンジョン高校では、一年生の時の夏休み前にFランクダンジョンでの実習の結果により探索者証を交付することになっている。


 《百花繚乱》の五人は夏休み前に探索者証を交付されている。国立ダンジョン高校生が実習の結果により探索者証を交付されないことの方が少ないので、ごく当たり前の事ではある。


 七月十日に探索者証が交付されているが、最初に登録されたランクがEランクである。これは実習でFランクダンジョンを完全攻略したことを表している。まあ、ここまではたまにありえる話である。


 驚くのはその後である。《百花繚乱》のメンバーは全員が七月二十日にDランクに昇格し、更に七月二十一日にDランクダンジョンを完全攻略しているのだ。おそらく七月二十日から夏休みになったのだろう、いやもしかしたら終業式の日かもしれないが、その日にEランクダンジョンを完全攻略し、次の日にはDランクダンジョンまでも完全攻略している。ダンジョン法によりCランクへの昇格は卒業するまでお預けであるが、Dランクダンジョンを十五歳か十六歳の五人でほとんど一日の間に完全攻略しているのである。Cランクの探索者パーティでも無理だと思うような実績であるが事実である。《百花繚乱》は結成当時から恐るべき力を持ったパーティであるのは間違いないようだ。


 買取り記録を見ると、確かにF、E、Dランクダンジョンの探索としては高額だが、こちらは今の龍泉様の買取り実績を見せつけられている私からすれば常識の範囲である。魔石が完全ドロップすると言われていたので、その効果で他の探索者よりも高額になっているものと考えられた。


 高校生の間はDランクのままなので《百花繚乱》にとっては物足りなかったのかもしれない。高校一年生の時は土日の二日間は毎週Dランクダンジョンでの買取り記録があるが、二年生から三年生と学年が上がるごとに週末の活動は少なくなっている。まあ三年生の授業は実習がメインになるので、平日の買取り記録がたくさん残っていたのだが。そして、たまにマジックアイテムが出てきたことが記録として残っている。


 卒業をしてすぐに全員がCランクに昇格している。卒業を待っていたとばかりに、それから毎日Cランクダンジョンでの買取り記録が残されている。Cランクダンジョンに入りはじめて五日でBランクに昇格しているが、すぐにBランクダンジョンに挑戦することはしていない。最初に京都のCランクダンジョンを完全攻略した後は、同じ京都のダンジョンに入り続けながら、近隣の大阪、滋賀、奈良、兵庫等のCランクダンジョンにも遠征している。


 最初の京都のダンジョンで、有用なマジックアイテムを得ているようだから、いろいろなマジックアイテムを集めていたのではないかと推測する。このCランクダンジョンでの買取り記録とともに、大量のマジックアイテムの出現報告が添付されているから間違いないだろう。


 気になる記録として探索者証への入金金額が、途中から龍泉様だけが他のパーティメンバーよりも少なくなっていることだ。その分パーティ用のカードには入金が増えているが、龍泉様は不遇な目にあっていたのだろうか?この頃から龍泉様はソロでの活動の買取り記録が残っている。ソロでEランクやDランクのダンジョンを探索しているのは何故なのだろうか?


 そして《百花繚乱》は約一年間のCランクダンジョンでの活動を終えて、その後は本格的にBランクダンジョンの探索を開始している。京都のBランクダンジョンに初挑戦したようで、そこで初めてBランクダンジョンでの買取り記録が残されている。


 Bランクダンジョンでの買取り記録を見ると、一回の探索でパーティ全体で大体五十万円の買取り金額、一ヶ月で軽く一千万円を超えている。更に、京都のBランクダンジョンを完全攻略した時に最後のボス部屋で金色の宝箱が出てきた記載があった。八千万円の買取り価格の剣がその宝箱の中から出てきたと記されている。


 その後は、今年の六月末までBランクダンジョンでの活動が続いている。その間のマジックアイテムの記載があるが、その中に魔法のスキルオーブを四つも手に入れているという情報があった。スキルオーブなんか年間で二、三回記録されるかどうかのものである。スキルオーブが出てきた情報は全ての探索者協会に通知されるから間違っていないと思う。それを一つのパーティで約三年間の間に四回も得ているのだ、スキルオーブの半分は《百花繚乱》の実績であることを知ってしまった。そしてつい先日に、龍泉様はソロで二つのスキルオーブを取得しているのだ。《百花繚乱》の四つのスキルオーブも龍泉様が居たからこそだと考えていいだろう。


 Bランクダンジョンに挑戦するようになっても、龍泉様はソロでの活動を続けている。パーティでの活動を含めると、心配になるぐらい毎日ダンジョンに入っていたようだ。


 そして、今年の七月になり京都のAランクダンジョンを攻略し始めたようで、合計三回の買取り記録が残されている。三回目の記録にはボス部屋の討伐失敗の情報が残っていた。帰還石で五人無事にダンジョンから出てきたと記されていた。


 その後は、岡山での記録が記されている。


 龍泉様の探索履歴を閲覧してきたが、ここから推察されるのは、龍泉様はパーティの中では不遇であったこと。おそらく龍泉様のお陰で魔石が完全ドロップしていることやマジックアイテムを大量に手に入れていることを知らないのだろう。


 龍泉様がソロで活動していたのはお金の為ではなく、実力をつけるためであろう。Cランクダンジョンの低階層でパーティメンバーの募集を行ったということは、今の実力ではCランクダンジョンの探索が厳しいということが分かる。ほとんど最速でランクを上げ続けてきた《百花繚乱》のパーティメンバーは信じられないような実力の持ち主ばかり集まっているのだろう。それにより他のメンバーより少ない半金の入金だったと思われる。


 そして、Aランクダンジョンの攻略失敗により、龍泉様はパーティを離れて岡山にやって来たということだろう。


 《百花繚乱》は今後大丈夫なのだろうか?今までのマジックアイテムの装備品によりBランクダンジョンでの探索は難しくないであろうが、今よりも収入は減少して、有用なマジックアイテムも手に入れることが難しくなる事は確実である。Aランク探索者パーティが生活に困ることはないだろうが、満足できるかどうかは別物だ。


 まあ《百花繚乱》の事はどうでもいいので、とにかく龍泉様である。京都にいたときにはなかった【幸運】スキルを岡山に来て得たと言われていた。【幸運】スキルのお陰だろうが、ドロップするものが《百花繚乱》に在籍していたときよりも格段に良くなっている。腕輪や二つのスキルオーブが三回だけの探索で出てきたことから間違いないだろう。


 これからも《百花繚乱》が初めてBランクダンジョンを完全攻略したときに出てきたような八千万円の買取り価格が付けられたマジックアイテムと同等の物かそれ以上の物が出て来るだろう。そうした時に龍泉様は何処まで強くなる事を望むのだろうか?


 岡山ダンジョンにいる者としては、ずっと岡山ダンジョンで活動してもらって、ポーション等を納品していただくことが望ましいが、そこで留まるような方ではないだろう。龍泉様の人柄や【幸運】スキルによりパーティメンバーも集まってくるだろう。その時には上を目指して岡山を離れて行かれるかもしれない。


 先の事を考えてもしょうがない。今は気持ち良くダンジョンに通ってもらい、ポーションを中心とした買取り実績とマジックアイテムの出現実績を積み上げ、沢山の探索者に岡山ダンジョンに来てもらうことができるようにするのが一番重要だろう。実際に龍泉様の影響で徐々に来場探索者数が伸びて来ている。龍泉様が岡山ダンジョンの救世主であることは間違いない。


 京都に居たときの事は触れないようにしよう。何処に地雷が埋まっているか分からない。触らぬ神に祟りなしだ。






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