第28話 正輝からの電話

 月曜日もいつも通り朝の鍛練から始める。いつもと違うのは綾芽のテンションだ。昨日吉備路ダンジョン群で得たマジックアイテムは料理道具を母親に、それ以外は綾芽のものになった。僕は靴も持っているし、ヘルメットのシールドは暗いところでも良く見えるようになっているからゴーグルは必要ない。二つのマジックアイテムが余程嬉しかったのだろう、朝からハイテンションになっている。しかも暗くも無いのにゴーグルをつけてランニングをしていた。


 鍛練後もハイテンションのまま登校して行った。あの調子で一日もつのかな?僕は投擲の練習をかねて岡山ダンジョンに行く予定である。その前に昨日の戦利品の相談を母さんにする。


「母さん、昨日ダンジョンで少し傷んだトマトと桃が沢山手に入ったんだけどどうにか使えないかな」


 実物を見せながら聞くとすぐに返事が返って来る。


「トマトはソースにして保存しとけば大丈夫だろう。桃はそのままでも食べられそうだし、気になるならジュースにでもすれば良いんじゃないか」


 流石うちのグランドシェフである。そのまま傷んだトマトを全部収納から出してお任せした。朝御飯をいただき、今日の弁当とストックを受け取って岡山ダンジョンに向かった。


 岡山ダンジョンではいつも通り刀の素振りと投擲の訓練を練習場で行い、その後ダンジョンに入る。ここのところずっと六階層から十階層を探索していたので、今日は久しぶりに十一階層から十五階層にチャレンジする。岡山ダンジョン二日目に一度探索したが、その時はゴブリンアーチャーに苦戦した。特に十五階層のボス部屋で二匹のゴブリンアーチャーに苦戦して遠距離攻撃の出来る探索者の求人をする事にしたんだ。気を引き締めていこう。


 転移の柱から十一階層に転移する。転移した場所はセーフティーゾーンで、一組のパーティが打ち合わせをしている。ここで出て来る魔物は五、六匹のゴブリンパーティで、そのうち一匹がゴブリンアーチャーで他がゴブリンファイターとゴブリンの組み合わせ。打ち合わせをしているパーティはまだ時間がかかりそうなのでお先に行かせてもらう。


 アーチャーから遠距離攻撃を受けずに倒し切るのが一番良いが、前回のように無理矢理前衛をこじ開けてアーチャーを最初に倒すような方法だと十六階層以降のような遠距離攻撃の出来るゴブリンが二匹以上になると余りにもリスキーな戦闘になると思う。最も僕に絶対的な速さがあれば通用するだろうが、無いものを求めてもしょうがない。今日は前衛のゴブリンをすべて倒してから最後にアーチャーにとどめを刺すようにしたいと思う。集中していこう。


 まずは五匹のゴブリンパーティにエンカウントした。自由に遠距離から攻撃を受けないように石を投げてアーチャーを牽制する。上手く命中した。その隙に前衛ゴブリンを狙う。刀を左に持ち替え右手に棍棒を腕輪から取り出し、すかさず投擲する。距離が近いので当然ヒットし体勢が崩れたところを刀を両手で持ち左側から切り上げる。一匹討伐完了。囲まれないように少し距離をとりアーチャーに石を投げる。これを繰り返し危なげなく討伐出来たがしっくり来ない。ドロップアイテムを回収してセーフティーゾーンに戻る。


 もう一度やり直しだ。ちょっと臆病になりすぎているのかもしれない。一匹ずつ倒していっても結局は行き詰まるのは見えている。同時に三匹は連動した動きで倒せるようにならないとダメだろう。


 一度ダンジョンの外に出て一階層からやり直す事にした。


 結局三、四階層を中心にゴブリンパーティを相手に訓練を重ねた。ゴブリンの上位種はいないので脅威は無いのだが、流れの中で複数のゴブリンを相手に出来るように動きを確認しながら倒していった。確かに以前よりも人が増えているようで、最短の通路だとゴブリンと戦闘をしているパーティに出会う。今日の目的を考えてメインではない通路を選んで行った。


 結局納得行くことなく今日の探索を終えた。部屋での買取りが申し訳なかったが、いつもの五分の一程の買取り金額をカードに入金してもらった。そしてすべてを終えて家に帰った。

 

 家でも悩んでいるのがバレバレなのか家族の皆が心配して来る。晩御飯を皆と一緒に食べ、風呂に入ってから部屋へ戻った時、《百花繚乱》のリーダーの奈倉正輝から電話がかかってきた。


「麟瞳久しぶり。元気にしてるか?」


 まだパーティを脱退してから二週間しか経っていないぞ。久しぶりなのかと考えながら答える。


「元気にしてるよ。そっちはどう、新しいメンバーは見つかったのか?」

「いや、そんなに早く見つからないから四人で活動しているよ」

「まあ元気にしているようなら何よりだ。今日は突然どうしたの?」

「五日間休みになったから暇でね、麟瞳に会いに行こうかと思って。どう予定空いてる?」

「僕はソロだから、基本いつでも休みに出来るからね。大丈夫だよ」

「じゃあ明日から四泊五日で岡山に行くからよろしくな」

 

 新幹線の時間を明日教えてもらい駅まで迎えに行く事を約束して電話を切った。


 そのことを両親に伝えてから就寝した。




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