第2話

 この世界には、六つの種族があった。


 人。


 魔。


 獣。


 竜。


 精霊。


 そして、蟲。

 彼らは、争い合い、また、救い合い、今の領地を確立した。

 この、球状の世界の上で。


 【雑踏。】


 【舞う砂埃。】


 【商売が幾重にも行われる。】


 【活気のあるここが、商業区だ。】


 …歩いていると、あなたは、ついに懇意にしている鍛冶屋の前に出たようだ。


「ドワーフの武器…安いよ安いよ…。」

「…いや、ダメだ…。」

「ドワーフの…!」

「っドワーフの武器ッ!安いよ安いよーッ!!」


 ───失礼する。


「……ぁっ、どぞ…。」


 少しひ弱そうな店番の男に軽く会釈し…。

 店内に入れば、見えるのはボサボサの髭をはやした、鋼へと焦がれた"獣"。

 鉄を打つ、ドワーフ。

 あなたはその人に声をかける。


「何だぁネクターッ!!」


 がギンッ!!がギンッ!!

 雄々しく、荒々しく振るわれる金槌は金属とともに大音量を作り上げる。


 ───この鎧をッ!!修理してもらいたいッ!!!


 だが、あなたはこの店の常連だ。

 昔はその音に気圧されもしたが、今はそんなことはないのだ。


「おぉうッ!!そこおいとけッ!!」


 ───わかりましたァッ!!!


 少ないやりとりだが、小さい頃からあなたと接してきたドワーフには、これだけでも充分だ。

 あなたは鎧を床に置いてから、店の外へと出る。

 その時に、あなたは不意に声をかけられる。

 店番のひ弱そうな青年だ。


「…ぇと、すみません。」


 ───何か。


「…あの、大声を、出す、秘訣って…。」

「…変なこと、聞いてると思うんですけど…。ドワーフのおじいさん相手にあそこまで張り合えるなんて…憧れちゃって…。」


 ───………。


 あなたは、思案する。

 この青年には、方法を教えても意味がない。

 "自信"こそ、真に与えるべきものだろう、と邪推した。

 元より彼はあなたが来る先程まで大きな声を出せていた。


 ───案ずることはない。


「……?」


 ───君はさっき、大きな声を出せていたじゃないか。気づいてないのか?

 ───もう少し自信を持つべきだと思うぞ。


「………えっ?出せてました?」


───ああ。なんでこんなことを尋ねるのか、不思議に思うくらいには…。ドワーフの親父にも負けてなかったよ。


 彼は、少し呆けて、そして───。


「…っありがとう、ございます。」


───おう、頑張んな。若いの。


 こう、あなたに返したのだ。

 あなたは、それに一つうなずいて、宿への道を急ぐ。


 何しろ、討伐から今までに至って、一晩も休んでいないのだから───。




「───ール】ッ!」


「【治癒ヒール】ッ!!」


 ───あ、れ…。


 【木でできた天井。】


 【痛む頭。】


 【そして、目の前にいる銀髪の少女。】


 ───ここは、宿屋か。


「…良かった…!」


 あなたが、パチリと目を開けたのを確認すると、彼女はホッとしたように立ち上がる。


 ───俺は、何を……?


 あなたも、ゆっくりと、安全に立ち上がった。


「…えーと、覚えて、無い、ですか。そーですか。」

「言ってしまうと、あなたは、宿の前にて、過労で倒れていたんです。」


 まだ本調子でないあなたに、少女は言う。

 あなたは、時間をかけてその言葉を飲み込む。

 あなたは、まさか自分がその様な理由で倒れるとは、想定していなかった。


 ───それは、すまなかった。


「…いえ、大丈夫です。」

「他者を助ける事が私の信仰を確固たるものにしますので。お気になさらず。」


 ───そうか、ところで、俺はネクター。


 ───あなたの名前をお聞きしたい。


「…ラティスと申します。」

「…同じ宿に泊まるもの同士、ご縁があれば、どうぞよろしくお願いしますね。」


 …そして、ラティスはそれきり、割り当てられた部屋へと戻っていく。

 あなたもそれに続くようにして、自室へと赴いた。

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辺境戦士ネクター 松田勝平 @abcert

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