第57話 迷宮の終わる日 ④

「では挨拶がわりの一撃といこう」


 ガーラ・ガーラの鎧。


 それはカラ・カラのゴーダ・ゴーダに似ている。


 差異は、雷を纏っていること。攻撃を受けたら身体の自由を奪われて追撃で殺されるわけだ。


「絶対に受け止めるな、自分を抱えて逃げろ!!」

「ははは、そう怯えるな。余としても楽しみたいのだ」


 振りかぶった斧も雷を纏っている。つまりは受ければ死。


「兄上!!」


 カラ・カラが斧を止めた。ぶつかった事により周囲に衝撃が走る。


「カラ・カラか、お前は戦うに値する男になったのか? 役立たずに何ができる」

「見せてやるよ兄上、前とは違うところを存分に」


 鎧が組み合う。確かにゴーダ・ゴーダなら電気は通さない。雷を纏っていようがいまいが関係ない。


 動きが止まったのならば好都合。


 もとより個人戦ではない。横槍で削らせてもらおう。


「サンソン殿!!」


 カラ・カラの声。意味は読み取れる。手出し無用と言うのだろう。


 自分で決着をつけると言うのだろう。


 だが、それは。


「驕るなよカラ・カラ。今の余が全力を出していると思うのか」

「そんな事は分かっている。兄上は遊んでいる。だが、それこそが敗因だ」

「ほう? では見せてみろ」

「言われずとも!!」


 それは。


「はぁああああああああああああ!!!!」


 それは。


「……」


 無理だ。


 カラ・カラが行うのはゴーダ・ゴーダの限界を超えた出力での勝負だろう。


 だがそれでは無理だ。出力で【老害】とやり合ってはいけない。【老害】の力は無尽蔵だ


 世界を壊せる相手に力比べをしたら、正面から殺されるだけだ。


「カラ・カラ王、ダメです。それでは」


 エネルギーの総量が違いすぎる。限界を超えて出した力でも同じだ。無限を相手に1を10にした程度で何が変わる?


「分かっております、分かっておりますとも!! 私には力不足だということも、不可能だということも、ですが」

「お前まさか……!?」

「相変わらず勘が良い。でも、もう遅い」


 ガーラ・ガーラが腕を離せない?溶接、いや融合しているのか。


 そして高まり続けるエネルギーはやがて自壊を引き起こす。


 一体化したガーラ・ガーラの鎧ごと。


「カラ・カラ王。至宝をなげうつのですね」

「兄上の手札を潰せるのならば安いもの、そうでしょうサンソン殿」


 顔は見えないが、笑っているのだろう。そんな声だった。


「カラ・カラ。お前がそれを失えば真の役立たずに戻るのだ。良いのか」

「……兄上、私は兄上よりも優れたところがあるのだそうです。それが何か分かりますか」

「お前はただの凡夫だ。そんなものありはしない。前と何も変わらん」

「ありがとう兄上。それで確信した。私は優れていた。そう、年月に負けたあなたより」

「戯言、詭弁の類だな。くだらん」

「そうかもしれない。それでも私は救われた」

「は、はは、はははははははは!!!! そうかカラ・カラ、お前はそうなのだな。その人間に賭けたのだな」

「ええそうです。これが選んだ道です」

「面白い、ではこうしよう」


 砕ける音、鎧が壊れる前に自分から出てきたか。


 同じようにカラ・カラもまた鎧を脱ぐ。


「褒美だ愚弟、一撃をやろう」


 拳を握る。


 そして打つ。


 それだけ。


 それだけの事がなんという圧力。アジヤーカの時とは違った形での隔絶した暴力。


 当たれば確実に死ぬ一撃。それをカラ・カラは正面から待ち受けている。

 

 その目は死んでいない。


 何か策があるのか。


「誇りに思えよ。直々に殴るのはいつぶりか」


 目では追えない速さ。


 カラ・カラは。


「……?」


 ガーラ・ガーラの身体は空中に放り投げられている。不思議そうな顔だ。


 事態が飲み込めていないのだろう。


 まさか、【老害】を投げ飛ばすなど。誰が考えるだろうか。だが、カラ・カラはやった。


 それだけの話。


「前にゲンコツ食らった時の方が痛かったな兄上」


 寂しそうにカラ・カラはそう言った。

 

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