第58話 迷宮の終わる日 ⑤

「ヤトア」

「ええ、分かっていますわ。蒼の参番」


 冷気を纏ったヤトアが征く。


 空中のガーラ・ガーラには避ける術がない。極低温によって物言わぬ彫像になった時こそ自分の出番だ。


「冷えるな……」

「手向けですわ。お受け取りくださいな」


 蹴り一閃。


 それでガーラ・ガーラは凍りついた。


 氷像が落ち、重たく澄んだ音が響く。


「今ですわ!」

「すぐに行く、冷気を維持してくれ」


 重たい身体を引きずって、やっとの思いでたどりつく。身体が燃えるようだ。血も出ている、身体の内側はボロボロだろう。


 それでもだ。


「今度こそだ」


 自分の手が触れる。


「ふぅむ、こんなふうになるのだな。余の氷像など滅多に見られるものではない。良いものを見せてもらった」

「っ!?」


 もう1人の?


 馬鹿な、どういう事だ。ガーラ・ガーラはもともと2人いた?


「なに、聞けばつまらない話だ。この迷宮内にあって余は万能というだけのこと。自らをもう1人生み出すなど児戯に等しい。では続けてくれ、余がどうなるのか見たい」


 なるほど、迷宮における絶対性を見誤っていたか。


 ならば。


「予定変更、C作戦だ!!!」

「ほう? やってみるが良い」


 ガーラ・ガーラの注目を集めた。


 C作戦?


 ない、そんなものは。つまりはハッタリだ。だが、一瞬でも注意が逸れれば。


「ん?」

「弾けろ!!」


 ユウ・ユウが間に合う。引っ掛けた指先からガーラ・ガーラの身体が破壊された。


「良い攻撃だな、意味はないが。それがシー作戦か」


 また別の個体が現れた。さっきまで話していた個体はそのまま散らばっている。防御力や再生による不死性ではなく、次の自分が無限にいるという事か。


「サンさん、どうしようこれ。キリがない」

「サンソン殿……」


 厄介だ。動きを止めたりした段階で次が出てくる。おそらく大元にいる何かに触れなければ自分の力は使えない。


 いや? 本当にそうか?


 精神や記憶を共有しているのならば、そのつながりを辿っていけるかもしれない。


 氷像に触れる。


「汝が命脈、断つか否か」


 不発。この身体はすでにガーラ・ガーラのものではない。


 では本体と呼ぶべきガーラ・ガーラに触れる必要がある。しかも別個体を出される前に。


 見たところ予兆や、予備動作はない。多数出して圧殺してこないところを見ると一体の制限があるようだ。


「ふむ、探りを入れておるな。気になるのならば聞けば良い。余は隠さぬぞ」

「本体はどこにいる?」

「本体? ああそういう事か。余が何度も出てきている事が不思議なのか。であれば答えよう。知らぬと」

「しら、ない?」

「そうだ余は知らぬ。どうしてこんな事ができるのかどういう理があってこうなっているのか分からぬ。だが問題はあるまい、お前達を潰して、その後は好きにすれば良いのだからな」


 人が呼吸の仕方を説明できないように、ガーラ・ガーラにとっても説明がつかない出来事というわけか。


「それならどうにかなりそうだ。ありがとう」



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