第53話 勇者語り
3人組の勇者と話はつけた。敵対的であれば厄介だったが、非常に有効的で助かった。
「不測の事態が起きた時用に手は打ったが、いくら準備しても十分とは言い難い」
あの3人は切り札にはなり得ないが、手札としては十分すぎる能力がある。
使いどきを見誤ることさえなければ有効な手となるだろう。
「さて、他に用意できるものは……」
ぐらりと視界が揺れる。そうか、思ったよりも身体にはダメージが残っていたらしい。徹夜程度で何を馬鹿なとは言わない。人間である以上は、寝なければならない。
幸いランドが時間を作ってくれた。
自分も少し休むとしよう。
※※※
「……こえーよあの人」
宿屋にて、勇者3人が顔を突き合わせていた。話題はもっぱら先ほどまでこの部屋にいた客人サンソンのことである。
力担当であるはずのタケシが身を震えさせた。それは暴力とは違う恐ろしさを刻まれた者が得る恐怖。
未知への恐怖だった。
「怖い?」
「いやお前もそうだったろ。足が震えてたぞ」
「上手く隠せていると思ってたけど、無理だったか」
ケンが力なく笑う。
「仕方ないって、だってあの人こっちの目を見てるのに、目線合わないんだもん」
思い出して恐怖が蘇ったのかクロトが自らの体を抱いた。
「話をする限り、あの人は日本から転生してきた感じの人だった。こちらで育ったにしろでもあんな風になるものか」
「肉体的にはそんなに強くないはずだ。でもあの人に積極的に逆らおうとは思えねえよ。何されるか分かったもんじゃねえ」
「良い人そうなんだけどねえ」
「良い人ではあると思う。けどそれ以上に、圧倒的な不気味さがあるんだよ。なんか人の皮を被った怪物というか」
「ああ、違和感が凄いよな。同じ生き物のはずなのに、なんであんな気配が出せるんだ」
「そういえばクロト、君の隠れ身って今まで一回もバレたことなかったよね。なんであの人には分かったんだろう」
「ああ、それね。最初は困惑したけど、話を聞いたらすぐに分かったよ。あの人は魂を探知できるみたい。本人の自覚はないようだけど、きっと能力の対象を見失わないための力だ」
「うわ、ますます死神染みてるな」
3人の脳裏に鎌を持ったサンソンがリアルに幻視された。
背筋に氷でも突っ込まれたかのような寒気が走る。
「似合いすぎだろ……」
「うーん、擁護できない」
「ヤバいね」
恐怖の再確認を終えた時、ケンが口を開く。
「でも、あの人は僕たちを元の世界に返してくれるよ。最後までやるつもりだって言ってたし」
「ああ、絶対にやるってな」
「全部あの人に任せておけば良いんじゃない? なんてね」
「分かりきっていることを言うものじゃないよクロト。あの人は確かに得体が知れないし、怖い人だ。それでも、やっぱり人間だったよ。弱さも脆さもある、誰かに助けてもらわないと目標を達成できないんだ」
「ま、そりゃそーだな。怖いって言っても、ブチ切れた親父よか怖かねーし」
「タケシの親は自衛官だから余計怖いもんね」
「言うな……でも、もう一回会いてえんだ」
「そうだね。僕も家族に会いたい」
「同感だ」
三人の顔から恐怖の色が薄れていく。
「しゃーねーか、やるしかないもんな」
「ああ、曲がりなりにも僕らは勇者」
「あんまり強くないけどね」
クロトの言葉で2人が笑う。
「それも言うなって」
「ははは、ごめんごめん」
「ま、なんにせよだ。やる時は思いっきりだよ」
「当然」
「やっちゃおう、全力で」
勇者たちの壮行会は夜更けまで続いた。
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