第51話 英雄 ガーラ・ガーラ

 ワシは、英雄になりたかった。


 人を救い、国を救い、世界を救う。そんな英雄になりたかった。


 ゆえに力を求めた。もっと強く、もっと強く、もっと強く。


 幸い素質はあった。ワシは強くなった。ともに将来を期待された弟すらワシに手も足も出なかった。


 だが、強くなっただけだった。


 確かに戦いはあった。確かに危機はあった。


 しかし、それはなんとも言えない手応えを残してワシの足元に転がった。


 ワシの強さをぶつける先など、どこにもなかった。【老害】と呼ばれる災害に挑もうとしたが、【老害】であると同時に要人でもある。そんな存在においそれと手を出せるほどワシは馬鹿でもなかった。


 中途半端な賢しさに縛られて有り余る力を持て余す暮らし。


 それも確かに幸せだったろう、それも確かに生き様だったろう。


 だが、飢えていた、渇いていた、足りなかった。自分が生きているのか、それともゆっくりと足先から腐っているのかも、分からなかった。


 英雄と呼ばれるようになってから、長い永い時が過ぎた。


飢えも渇きも日常になったある日。


突然それは来た。


「っ!?」


久しく感じていない高揚感と万能感。今のワシならなんでもできるという確信。


加えてみなぎる力。


「……カラ・カラ」

「なんだい兄上」

「ワシは今から地下に潜る。言っていなかったが、伝説の財宝の在処が分かった」

「ええっ!? シンバ・シンバの地下に!?」

「そうだ。誰にも言うな、そして、戻ってこないようなら迎えに来い。武装を忘れずにな」

「え? あ、うん」


 嫌でも分かった。これは兆候だ。


 【老害】になるサイン、話には聞いていた。今まで自分では考えられない数々の思考と、充実した気力、体力。


 そして破壊衝動。


「ちくしょう、ワシはここまでか」


 せめてワシがまともでいるうちに、ワシがワシであるうちに。


 地下深く、奥深くまで、掘り進めなければ。


 ワシは、弟や同胞を殺すために力を求めたわけじゃない。


 カラ・カラには追ってこいと言った。いずれはあいつはワシを止めるだろう。


 その日が来るのだけを楽しみにワシは地底に潜る。


「……」


 少しずつ、少しずつワシは消えていく。


 【老害】の思考、タガは外れていき、地底を塗り替えようと力を振るう。


「……」


 最後の時は近い。


 そんな時、知り合いから報せが届いた。


 ワシらに最後を与える者が現れたと。


「……」


 カラ・カラよお、早く連れてこいや。地上が根こそぎになる前に。

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