第49話 迷宮攻略準備 ⑨

「見ましたかカラ・カラ王」

「なんの迷いもなく顎を一閃とは、これは日頃から打ち抜く想定をしていなければできない。さては、いつかこうするつもりであったか」

「え、いやだって、お姉ちゃんを止める日は絶対に来るだろうと思って、その、はい。こっそり練習してました」


 あまりにも即決、あまりにも早い動きにユーラ・ユーラも驚いて何もできずに倒れた。


 まさか一瞬たりとも迷わずに殴りにくるとは思わなかったのだろう。自分も思わなかった。


「と、とにかく、お姉ちゃんは倒したので私はついていきます」

「これはユーラ・ユーラ様が策に溺れた形ですね。まともに相対すればやりようもあったでしょうに」


 何せ即死攻撃が使えず、死に至らしめる攻撃もできないのだ。流石に回復の名手相手では分が悪い。


「仕方ないでしょう。ユーラ・ユーラが言い出した事です。それに戦力的にはこれ以上ないほどに頼もしいのですから」

「時にカラ・カラ王」

「なんでしょうか」

「カラ・カラ王は参戦されますか」

「……お見通しですか」

「いえ、正直なところ半分くらいの気持ちで聞きました。王の参戦は非常にありがたい反面、取り返しのつかないことになる可能性が多く発生します。率直に申し上げましてお勧めはできません」

「忠告痛み入りますが、決めた事です。兄の決着には私も立ち会います。異論を受け付ける気はありません」


 一応進言はしたが、これは何を言っても譲らないだろう。であれば存分に頼らせてもらおう。英雄たるユウ・ユウを完封した力を。


「分かりました。ではそのつもりでいます」

「ありがとうございますサンソン殿。それでは方法を決めましょうか」

「ははは、ご冗談を。もう決まっているでしょう」

「そこまで読まれていましたか。ええ、私は3番以外を推すつもりはありません」

「そう言うと思っていました。幸い空間干渉に関してはここに専門家がいます。一助になれば良いのですが」

「え? サンソンもしかしてさらに仕事増やそうとしてる? とんでもない規模で能力を使わせるうえに、空間転移の補助までやれって言うの?」

「ランドならできるだろう?」


 と言うか、やってもらわないと困る。


「んもうっ……!! 良いよやったげる。でも本当の本当にギリギリだから。これ以上は本当に指一本動かせないから」

「助かる。流石だ」

「後でもーっと褒め殺してもらうからね」

 

 喉が潰れなければ良いが。


「ランド、迷宮を覆うにはどれくらいかかる」

「7日、と言いたいけど。3日でいいよ。時間もそんなにないんでしょ?」

「ありがたい。臨戦体制になった迷宮がどうくるかは未知だからな。早ければ早いほど良い」

「じゃあサンソンは3日間付き合ってよね。僕は動けないから甲斐甲斐しく食事と心の栄養を補給して」

「心の栄養とはどうすれば補給できるんだ」

「頭を撫でたり、ぎゅっと抱きしめたりだね」

「なっ!? ずるいですわ!!」

「ヤトア、3日間でする作業量じゃないんだからこれくらいの役得は許してほしいな」

「くっ……確かにそれは、そうですけれど」

「ふふふ、僕とサンソンがいちゃいちゃしているのを見ていても良いし。脚の調整をしても良いし。ヤトアが最善だと思うものを選びなよ」

「……ええ。分かっていますわ。相手はお祖父様と同格ですものね」


 ヤトアの雰囲気が変わった。戦士の空気になった。


「ワタクシ、これくらいで失礼いたしますわ。少し試したい事がありますので」


 ヤトアが席を外す。


「では私も最終調整をいたしますので、失礼を」

 

 カラ・カラが奥へと消えた。


「……私はどうすれば良いかなサンさん」

「とりあえずそこで伸びてるお姉さんを引き取っていただけると」

「あ、あはは。そうだよね。じゃあまた3日後に!!」


 ユウ・ユウが姉を担いで走り去った。


 残るは自分と、ランドのみ。


「頼むぞ」

「任せてよ」


それ以上の言葉は要らなかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る