第48話 迷宮攻略準備⑧

「……サンソン殿もなかなか英雄らしい面をお持ちで」

「そんな柄ではないのですが……」

「いえいえ、それで良いのですよ。貴石の周りには鉄が寄ると申します通り。一握りの者が持つ求心力は凄まじいものです」

「左様ですか」

 

 ドワーフの格言、あまり馴染みのない言い回しだ。


「では続けましょう。私たちが目指すのは迷宮の最奥。玉座のある空間ですね。幸いその位置は今まで一度も変わっていません。おそらく変えられないのでしょう」

「変えられない理由としては何があるでしょうか」

「ここは迷宮の核に当たる部分です。つまりは土台に等しい。あらゆる建築物が土台なしに成立し得ないように、根底が簡単に揺らぐような作りでは迷宮は瓦解するのです。推論ではありますが、ほぼ当たっていると思います」

「なるほど。続けてください」

「それではここに至るまでの道を提案します。考えられる方法は大きく分けて3つ。一つ目は正攻法に近い方法。当該する座標まで堅実に掘り進めるやり方。2つ目は賭けの要素が大きいですが速い方法。ユウ・ユウを投入して全力で駆け抜けるやり方。この場合は縦の穴に落ちるような形となります。そして3つ目はおそらく最速かつ最も危険なやり方。私が玉座の間に直接送り込むやり方です」


 態度に出さないよう努めたが、驚いた。記憶にあるカラ・カラはこんな事を言い出す人物ではなかったからだ。


 まさか自分で直接送り込むとまで言うとは。


「3つ目は、本当に可能なのですか」

「賭けにはなります。ですが、時間を与えれば与えるほど対処される可能性が高くなる事は必定。成功した際の利は計り知れない。迷宮に直接送り込む事ができるのは先日やった通りです」

「賭けに負けて失敗した際は全滅します。罠に自ら飛び込む形になる場合もあるでしょう。カラ・カラ王、あなたに世界の命運を背負う覚悟はありますか」

「世界を背負う覚悟。そんなものは要りません。私はただサンソン殿達を送り出すのみ。そこには気負いも覚悟も必要ない。なすべき事をなす。それだけです」


 それを覚悟と言うのです。とはさすがに言い出せない。良い空気を纏うようになった。


 茶化している場合ではない。


「そうなるとお願いしていたユウ・ユウ様の協力は必要なくなります。ユーラ・ユーラ様の心労もなくなるでしょう」

「ちょ、ちょっと待って!!! 今さら外されるの私!?」


 どこからか飛び込んできたのはユウ・ユウだった。


「おや、聞いておられましたか」

「あ、いやそのう、聞いておいた方が良いかなぁって、聞き耳を……」

「ユウ・ユウ、お前の力は比類なきもの。掘削のみに使う条件でユーラ・ユーラの許可を得たと聞いたが、お前はどうしたい」

「やっぱり私は、戦いたい!!! この場所のために、お姉ちゃんのために」

「と、言っているがどうするかね」


 カラ・カラが視線を投げた先にはユーラ・ユーラが立っている。


「お姉ちゃん、居たんだ……」

「そりゃあいるわだってこれは国を超えた世界のための会議だものだってお姉ちゃんはこの国でも上から数えた方が早いくらいには強いからそれよりもユウ・ユウには何度も言ったはずなのにどうしてまた戦おうとするのかしら」

「お姉ちゃんごめんね。私全部聞いてたんだ。お姉ちゃんがサンさんに色々お願いしてた事」

「っ!? そう、あなたにはもう効かないのねそれならば隠す必要もないでしょうしもっと直接的に言いましょう」


 真っ直ぐに視線がぶつかる。


「ユウ・ユウ。あなたが居なくなることに私は耐えられないだから行かないで欲しいの」

「お姉ちゃん。私はお姉ちゃんもこの場所も無くなってほしくない。だから、私は行くよ。止めないで」


 見事なまでの食い違い。平行線でもない真っ向の対立だ。


「それじゃあ、お姉ちゃんを倒してみせなさい」

「分かった」

「えっ」


 ワンパンチでユーラ・ユーラの意識は刈り取られた。






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