第47話 迷宮攻略準備 ⑦

「カラカラ王、地下迷宮の全体像を教えていただきたいのですが」


 何やら寝不足そうなランドを叩き起こしてカラ・カラのところに来た。


「そう言われると思いまして。こちらに模型を用意しております」

 

 仕事が早いな。これも決意の賜物か。


「私の把握している迷宮内部です」

「これほどのものか、地下迷宮とは」


 アリの巣、というのが一番近い表現となるか。とはいえ、規模も複雑さも、殺意も悪意も比べものにならない。


「これが随時意のままに入れ替えられ、変形すると思ってください。比較的動きにくいところはありますが、基本的にはやりたい放題の異界です。ましてや今は完全に戦闘体制、遊びはなく、殺しに来ています」

「真正面からの攻略は不可能、そう考えていたのは間違いではないようですね」

「ええ。まず間違いなく全滅するでしょう」

「迷宮の大きさ自体が変化する事はありますか?」

「いえ、多少の増築はありますが主な変化は内部のもの。内部を一個の世界として完成させる事が目的のようです」

「なるほど、では今の大きさはいかほどで」

「そうですね。シンバ・シンバを1として考えると」


 シンバ・シンバの大きさはかなりのものだ。鉱脈をくり抜いた後にできた都市だからな。


「ざっと20はありますでしょうか」

「20……」

「サンソン、今シンバ・シンバ20個分って聞こえたよ」

「そうだな。自分もそう聞こえた」

「僕が覆うって事だよね?」

「そうなる」

「サンソンはどう思う?」

「お前ならできると信じている」

「20倍だよ? この街のだよ」

「お前ならできる」

「下手したらドラゴンの山より大きいんだよ」

「できる」

「ねえ、サンソン。もっとできるって言ってよ。僕ならできるって、僕にしかできないって。そう言ってよ。そうしたら僕はやってみせるよ」


 期待に溢れた目だ。応えよう、その期待に。


「ランド。正直に言ってこんな無理難題を言えるのはお前だけだ。自分が今ここで、頼れるのはお前しかない。そして、お前なら確実にできるという確信もある。お前は、あの一度以外で俺の期待を裏切った事がない」

「うぐぅ……!?」


 しまった。傷を抉ったか。


「い、良いよお。もっとちょうだい、もっと」


 心配はいらなかったようだ。


「お前ならいずれ世界を箱に収める事ができるだろう。だから、これはその第一歩だ。世界に比べれば、これくらいできるだろう。何せお前は自分の最も信頼する者の1人なのだから」

「えへへ、そうなのお? サンソンは僕のことを信頼してくれているんだあ。世界獲れちゃうかあ」


 顔がだらけきっているな。もう一押し。


「ああ。お前ならできる。必ずだ。それくらい凄いやつなんだお前は」

「じゃ、じゃあ、これができたらご褒美が欲しいな、良い?」

「ああ、なんでも良いぞ」


 これは悪手だ。分かっている。何を要求されるか分かったものではない。だがここまで来てダメだと言える訳もなし。


「なんでも良いんだ。取り消さない?」


 一気に気温が下がった気がする。なんとも言えない迫力がランドから発生している。いきなり真顔になるな、怖いぞ。


「もちろん」


 これは誘導されたな。これ以外の回答がない状態にされた。ランドがこういうことをしてくるとは思わなかった。油断だ。


「じゃあ一晩、サンソンの時間が欲しい」


 そう来たか。


「そんなことで良いのか」

「それ以上に貴重なものはないよ。少なくとも僕にとっては」

「分かった。必ず時間をとろう」

「やっ…………たああああああ!!!!!」


 凄い声量だ。いったい何をするつもりなのか今から怖い。

 

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