第46話 迷宮攻略準備 ⑥

「ヤトアには自分の護衛と、移動を担ってもらう。自分の移動速度はたかが知れているうえ、攻撃後にはまともには動けなくなる可能性も高い」

「つまり、抱えて守りながら走れば良いのですか?」

「簡単に言えばそうなる。熱も冷気も躊躇なく使って良い。自分で対応済みだ」

「分かりましたわ!!! どれくらい走れば良いのでしょう」

「ガーラ・ガーラにたどり着くまでだ。足を止める事は許さない。何があってもガーラ・ガーラのところまで辿り着いてもらう」

「望むところですわ!! 間違いなく走破して見せましょう」

「頼もしいな。信じてるぞ」

「ええ、任せてくださいまし」


 これで大まかな枠は終わりだ。ガーラ・ガーラの力がどこまでかを正確に把握しているわけではないが、不慮の事態は必ず起こる。遊びのある作戦の方がかえって良いだろう。


「それで、サンソン。地下迷宮ってどれくらい広いの?」

「それを聞きに行くのは明日だ。今日はもう遅い。休んでおけ」

「りょうかーい、じゃあ寝るねおやすみー」


 すごい勢いでいなくなったな。そんなに眠かったのか。知らず知らずのうちに体力を消耗していたのかもな。


 自分も万全とは言い難い。もう寝てしまおう。


「それではおやすみなさい。良い夢を」

「ああ、明日もやる事が山積みだ。体力だけでも戻さないと支障が出る」


 休めるとなったらどっと疲れが来たか。これは夢の見ないほど深く眠れそうだ。


※※※


「あー、鼻血出そう」


いち早く席を外したランドは恍惚な表情で身を抱いていた。その理由は明白である。サンソンに頼られる、それ以上の愉悦はランドにとって存在しない。


しかも、最重要に位置するであろう仕事をこともなげに放り投げてきたのだ。


これを信頼の証と捉えたランドの全身は一気に幸福感に包まれていた。顔が緩むのを抑えることさえできなかった。


ただただ嬉しい。その一念のみである。


「にしてもサンソンってば無防備過ぎるよ。僕が最後まではできないと分かってて言ってるんだとは思うけど。僕だってサンソンをメチャクチャしたいと思う事はあるのに」


現象の具現、概念の具現たるゴッドには生殖欲というものは基本的にはない。それこそ変わり者が長時間短命種と過ご死でもしない限りそんなものが存在することすら理解不能だろう。


ただ生まれ、ただ育ち、なすべき事を成した後、【老害】にならなければ霞のように消えゆく。それがゴッドという長命種である。


ランドはサンソンと一緒にいた。そして欲をラーニングしたのである。


人間が愛玩動物に抱くような愛と、性欲に結びついた愛。


それらが混ざり合った混沌が、ランドの中に渦巻いている。


「少しくらいなら舐めても良いかな?」


態度の話ではない。


物理的な話である。


「あー、なんだろうなー、今回大活躍したら一晩の間サンソンを好きにさせてくれないかな。ヤトアだって一緒に寝てた事はあったんだし、僕だって独占する事があっても良いよね?」


ここでランドがハッとした顔をした。


「待てよ……サンソンに責められるのも、良いな」


ものすごく真面目な顔でランドが考える。それはすなわち、やる側かやられる側か。ランドの頭は現在ピンク一色であるが、ゴッドゆえの情報処理能力の高さは答えを導き出した。


「……最初はこっちが責めつつ、頃合いを見てサンソンに逆転させれば、どっちも楽しめるって事じゃない!?」


ランドの想像、もとい妄想は止まらない。


夜明けの光が差し込むまで、ランドは悶え続けていた。


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