第6話 太陽神との謁見

「お待たせっ♡」

「……お前そんな感じだったか」


 もっとこう中性的な、簡素な白い服を着ていたはず。それがなぜか今は肩や腹が露出するような扇情的な格好をしている。しかも、化粧までしているようだ。何か意図があると考えられる。


 それは何か。


①自分に気がある。


 却下だ。そこらの虫に恋する人間ほどに希少な性格であれば別だが。


②自分に会う時は抑えていた。普段はむしろ今の状態。

 

 却下。抑える意味がない。


③自分に取り入る必要がある


 うん。これが1番現実的だ。今の自分は超重要人物になっているはず、気に入られれば甘い汁が吸えると考えてもおかしくない。だが、そもそも無性のゴッドが色仕掛けなんて考えつくかという疑問があるが。


 なんにせよつまりは媚びを売っているというわけだ。ならばそれを否定しよう。媚びられても特に自分から返すものはないと突きつけてやろう。


「えっと、どうかな?」

「見慣れない格好ではあるが、似合っていることは確かだ。いささか肌が出過ぎているが」

「嬉しいよ。似合っていると言ってくれて」

「だが」

「?」

「お前が自分に対して何かの意図を持ってそういう格好をしているのは分かっている。わざわざそんな事をされてもお前の意に添うようなことはないぞ」

「そっか……君がこういうの好きかなと思ってやってみたんだけど」

「……? 好きではある。だがその媚びに対して自分は何も返さないという意思表示をしただけだ」

「やっぱりこういうのが好きなんだ」

「隠すような事でもない」

「ふぅーん……がんばるね」

「何をだ?」

「いーのいーの、僕が勝手にやるだけだから」


 やっぱりおかしな奴だな。これを追求しても終わりがなさそうだ。であれば、自分は話を次に進めるまで。


 ひとまず目標はゴッドの上層部との交渉だ。交渉の材料には事欠かないくらいの知識は与えられた。


「上に登るぞ」

「上? 何しに行くの」

「何って、恐喝だよ」

「きょうかつぅ!?」

「最悪の場合は」


 そうならないように祈ってはいるが。


「その必要はないんじゃなこれが」

「うおっ!? 目が……!?」

「えっ!? なんでここに!?」


 声と一緒に空間が光で照らされた。目を開けていられないほどの光はまるで地上に太陽がもう一個あるかのよう。


 こんなふうに居るだけでデタラメな光量を撒き散らすのは太陽神の関係者だけだ。ヘリオス、ラー、ルー、アポロン、トナテウ、などなどいるが今の神界を仕切っているのは。


「神長アマテラス様ですね!? 何も見えませんのでご威光を抑えていただけないでしょうか!!」

「む? そうかそうか。人間には強すぎたのう」


 無自覚マウントか? これだから長命種は。今まではただ従うだけだったが、これからは違うぞ。


 さっさと話をさせてもらおう。


「初めましてじゃの。ワシはテラ・アマテラス・マスラマ。ここで1番上ということになっておるのう」

「存じ上げております。わたくしはしがない商人をさせていただいておりました。サンソンと申します。以後お見知り置きを」

「なーにがしがない商人じゃ。世界規模の爆弾になったことに気がついていないわけではないじゃろうに」

「それも、存じ上げております」

「はー、やりにくいのー」


 アマテラスが空中であぐらをかいている。初めて見たが、縄文人みたいな髪型をした幼女が豪華な着物を着ているというような見た目だ。


 受け渡された情報によると最初からこんな感じだったらしい。最後の記憶は泣きながら封印をする姿だったようだが。ずっと一緒に居たな、名の通り温かな良い奴だったな。自分みたいに【老害】になっていなくてよかった。

 まずい、記憶に引っ張られている。


 口が勝手に。


「元気そうで何よりだよテーちゃん」

「……へ?」

「あ、今のは、その」


 明らかな失言、1番偉い奴にタメ口でちゃん付けをした。これはどう言い繕ってもキレられる。あまりにも舐めた発言だ。


 これはまずいな。冷静に穏便に話し合いをしたかったのに。


「う、うう」

「う……?」

「うわーん!!!」


 号泣? そして縋りつかれた。


「クッちゃん……!! なんで【老害】になんてなっちゃったんじゃよう……ワシを置いて遠くに行きおって……!!!!」

「悪かったよ。寂しい思いをさせたね。でも救われたんだ。救われたんだよ。だからそんなに泣かないで」

「うう……ひっく……もっともっと早く助けたかった……ワシの力で助けたかった……」

「良いんだ。良いんだよ」


 あー、駄目だな。口が自由にならない。これが残留思念的なものならば、これ以降はそんなに主張しないこと祈ろう。


 そうじゃないと乗っ取られたのと全く変わらない。あとランド。自分の上司なんだからそんな人殺しみたいな目で睨まない方が良いんじゃないか。


 あ、光が消えた。と思ったらなんか恍惚としだした。やっぱり変態なのか。


「すまぬ……ぐすっ……取り乱した」

「こちらも申し訳ありませんでした。情報を受け取った際に記憶が混濁したようです」

「それでもよい。クトーの件を解決した事は偉業じゃ。礼を言う」

「もったいないお言葉です」

「慇懃な物言いはやめよ。クトーの知識を継承したお前に畏まられる意味を感じないしの」

「では、そうしよう。正直に言うとテラに敬語を使うのが気持ち悪くてしょうがない」

「呼び捨てまで許可した覚えはないが許そう。では本題じゃ」

「いや、自分から言おう。神界の主テラ・アマテラス・マスラマ。自分はこれから他の【老害】を浄化して回ろうと思う。それに伴って神界からの援助が欲しい」

「ほう……それはむしろこちらからお願いする内容じゃと思っていたのじゃが?」

「だろうな。予想済みだからこそ自分から言った」

「ふむ、腹の探り合いは要らぬか。ならばワシからも直接言おう。サンソンよ、お前はこれから神界の至宝である船に乗り世界を巡るのだ。残る【老害】を消す旅をしてもらう」

「まあ妥当だな。終わった時に自分はどうなる予定だ」

「もし全員消して無事だったのなら、この世界の頂点に立つ事を許そう。これは既に他の長命種の長が了承済みじゃ」

「初めての統一王になれるのか。それは魅力的だな。たとえ飾りの王位でも」

「途中で死ねばそれまでじゃがな。そうでもしなければ大戦争が起きてしまうからの」

「【老害】の救済は長命種の悲願。それを考えれば自分をめぐって争いが起きるのも十分考えられる話だ」

「そういうことじゃ。自分から言ったという事は答えは決まっておるのだろう?」

「もちろんだ。全部終われば自分は王になろう。せいぜいあっても数十年の王位になるだろうが」

「良し。それでは出発の話をしようかのう。知っておるだろうが、船を出す必要がある」

「あー、あれか。空飛ぶ船、古代の遺産。誰が乗るかも定かではない機械」

「そうじゃ。その名も」

「「みんな仲良し号」」


 あいも変わらずクソダサい名前だ。


「え、かっこわるい」

「お前もそう思うかランド。自分も同じ気持ちだ」

「じゃがのう、遺産についた名前を易々と変えるわけにものう」

「自分が変えよう。どうせ誰も乗らない船だ。名前を変えても問題ない」


 船の名前はもう決めてある。前世で有名な船の名前を借り受けよう。


「アルゴー号。船の名前はアルゴー号だ」


 名前だけでなく、結末まで一緒にならないよう祈っておこう。





 











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