第13話

「つまり、あなたには前世の記憶があり、ここがゲームとやらの世界で、私は闇落ちしてその……悠久のなんちゃらという組織に加担し、最後はそのはざまに落ちて死ぬということですか?」

「そう! でも、闇落ちイベントはなくなったよ!」


 白杖さんの話を要約すると。

・白杖さんには前世の記憶があり、同じ日本という名前だけど魔物も戦闘学校もない普通の暮らしをしていた。

・この世界はその世界でプレイしていたゲームの世界に酷似している。

・今日、私は洗脳されて悠久のなんちゃらに入る予定だった。

・最後は狭間に落ちて悠久の時を彷徨う。


 ということ。

 なんとも荒唐無稽な……。にわかには信じがたい。現実味がなさすぎる。前世の記憶なんて言う曖昧なもの……。信じるにはまだ値しない。

 が、いいタイミングで助けに来てくれたのも事実ではある。

 白杖さんの言うことを、信じてみてもいいのかもしれない。根拠こそないが、未来を少しでも知っているのなら少しでもその組織について調べることができる。


「その悠久のなんちゃらを調べるためにもう一度接触したいのですが……。殺してしまいましたし無理ですね」

「黒刄ちゃん容赦なく殺したもんね」

「逃がして仲間の元に戻られたらいやでしたが……。情報を聞き出すためにも生かしておいたほうがよかったかもしれませんね。まぁ、どちらにせよ組織的な何かがバックにいることは生前の発言からして明らかですし、この男が戻らないのは怪しまれるでしょう」


 だからいずれにせよその組織は私の存在に気づくとは思う。いつ動いてくるかは予想できないが。

 

「さて、白杖さんはもう寝たほうが良いですよ。班の皆さんも交代交代で寝て見張りを立てているようですし、まだこの訓練は続きます。体力を少しでも回復するべきです」

「黒刄ちゃんも寝ようよ一緒に」

「私は十将ですので。まだこのような輩がいないとは限りませんし、警戒を続けます。私は少しくらい寝ずとも平気なので」


 私は焚火のもとを離れ、テントから距離を取る。

 

「夜宵ちゃん、襲われたんだってー? 大丈夫ー?」

「なんとか。襲い掛かってきた男はあちらの林に死体があります」

「あら、そう。殺しちゃった。ならとりあえず処理しないとねー。場所まで案内してくれるー?」


 私は由香里先生としたいのある場所に向かう。

 血が地面に流れていたのが固まっている。


「ちょっとライトで死体を照らしてて。いろいろと調べるから。気になる言動とかあった?」

「任務といっていたのでなにかしら私たちに関する依頼を受けていたとは思います」

「なるほどなるほど。じゃ、ちょっと斬られた傷をえっけーん。ほうほう、普通の切り傷。生身の人間で間違いないようだね。魔力の残骸もないし、ゾンビ魔法はかけられてなさそう。背中側は致命傷となった傷しかない……。おなかのほうは?」


 由香里先生は死体を転がし、おなかのほうを見始めた。

 おなかにはなにやら紋章のようなものが。焼き印というやつだろうか。肉体が少し焦げており、その焦げが形のようになっている。


「これはなんかの組織の紋章かな? なんかの芽吹きのような紋章だね。これは重要になってくるかなー。めぼしいのはこれくらい。じゃ、次はお口の中」

「ライトです」

「ありがとーう。あ、やっぱ奥歯に毒薬のようなものがあるね。任務達成し終わったら死ぬ予定だったのかな? 捕らえられる可能性も考えて自害できるように毒を飲み込めるようにしてある。相当ばれたくない組織みたいだね」

「最初から捨て駒の男ですか」

「子供たち相手するならこの程度の奴でも十分だと思ったんだろうねぇ」

「なんで子供たち相手って……。狙いは先生かもしれないのに」

「先生方を狙うならもっと違うときがあるよん。それに、この学園の先生たちは手練ればかりだよ? こんな生徒にやられるようなやつを送ってくるわけがなーい!」


 となると、やっぱ生徒狙い、か。


「でも、うちの生徒でこんな組織に狙われるような人いますかね?」

「わかんない。なんか偉い人の血筋とか跡取りとか、そういう子を狙いそうだけど、そういう子もこの学校にはごまんといるし……黒刄ちゃんもその一人だけど」

「狙いとなりそうな人が多すぎて定まらないパターンですか」

「そ! この学園は世界でも一、二を誇る戦闘学校だからねー。そういうお偉いさんだって実力があれば入れるし、そういうお偉いさんこそこういう学園に入れたいんだから。と、この黒いやつはなんだろ?」

「あ、それ……」

「これがどうしたの?」

「それを見せられたらなんか洗脳されたみたいに少しおかしくなったっていうか。私が」

「あー、ならちょっと調べてみよっか」


 と、由香里先生は魔法を展開しその黒い球を調べ始めた。


「ふんふん。あー、これはスキルの有無とか確認できる水晶に、なんかめっちゃめんどくさい魔法かけられてる。でも、これ洗脳魔法の一種ってことはわかったよ。黒刄ちゃん魔力量低いからそういうのに耐性ないもんねー」

「面目ない……」

「気にしない! どんな子にも弱点はあるから!」


 慰めてくれている先生の顔が一気に変わった。


「誰か来るねー。私、回復魔法とかは得意だけど戦いはできないから黒刄ちゃん、悪いけどお願い」

「わかりました」


 私は刀を構える。

 すると、突然目の前に仮面をかぶった男が現れ、由香里先生にナイフを突き刺そうとしていた。

 私はその男の腕を切り飛ばす。


「た、助かったぁ」

「けどこれはやばいですよ。人数が6人くらいいます。私ひとりじゃきついかもしれません」

「今ほかの先生を呼ぶよ!」


 それまで耐えろということですか。








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