第5話
剣術の授業が終わると昼食の時間。
昼は寮で弁当を作ってくるか、学園に併設されているカフェやレストランで摂るのが主流らしい。
この学園内は基本的になんでも揃っており、娯楽施設やレストランなどなど。一つの都市として機能している。
「すいません、タマゴサンド、レタスサンド、ハムチーズサンド、テリヤキチキンサンドを5つずつください」
「あいよー! お嬢ちゃんよく食うねえ!」
「はい。お腹空いてるので」
私はサンドイッチを注文し、しばらく待つ。
出来たと告げられて、お盆を手渡された。お盆の上には大量のサンドイッチが。代金を支払い、私は場所取りしていた席に戻る。
そして、アルミホイルに包まれたサンドイッチをまずは手に取った。これはテリヤキチキンサンドだろう。
照り輝いている鶏肉が挟まれて、レタスも挟まれていて彩り豊かだ。
「いただきます」
鶏肉は簡単に噛み切れるような柔らかさだ。テリヤキチキンの味付けも美味しいし、レタスのシャキシャキ感が食感のアクセントにもなっていてとても美味しい。
これはすぐにいけちゃうな。
私はサンドイッチを一人で食べていると。
「相席いいか? 席が空いてねえんだ」
「いいですよ。っと、2年の方ですか?」
「ああ。ってお前よく食うな。そんな小柄なのに全部食えるのか?」
「食べれます。昔から結構食べるんです」
「そうなのか……。人間って不思議だな……」
「そういう先輩はガタイは良さそうですけど量少ないですね」
「俺は少食なんだ」
なるほど。
先輩が手にしているのはベーコントマトサンド。トマトは肉厚に切られており、とてもジューシーそうだ。
「お前、名前なんて言うんだ?」
「黒刄 夜宵です」
「黒刄……。名門の黒刄流の娘なのか?」
「はい」
「なるほど……。お前さんが。どうりで強いオーラ出してるわけだ」
「私だけ名前を名乗らせるんですか?」
「そうだったな。俺は
「はい」
私は黙々とサンドイッチを食べていく。
赤王と名乗る先輩の周りには何やら視線を感じる。
女子生徒の視線だ。追っかけだろうか。私に対する憎しみの視線も感じられる。
「……先輩って人気者なんですか?」
「……うざいことにモテたりはする」
「なるほど。だからこんな視線が」
「すまんな」
謝ってくるが先輩のせいではないだろうに。
視線のせいで少し居心地が悪い。私は早めに退散するとしようかな。
残りのサンドイッチを食べる手を早める。が、食べ終わったのは赤王先輩と同じタイミングだった。
「外で俺の連れが待ってんだ。行くな。困ったことあったら俺のアドレスにでも連絡してこいよ。これ、連絡先な。誰かに教えんなよ」
「わかりました」
と、連絡先が書かれた紙を受け取り、私も少しタイミングをずらして外に出た。
すると、髪をグイッと引っ張られ路地裏に連れて行かれる。路地裏には数人の女性が集まっており、私を威圧するかのように睨みつけていた。
「なんなのあんた」
「なにかしましたか?」
「なんで赤王さんと話してるどころか名前覚えられてんのよ」
「席がないから相席して話し相手になっていただけですが」
「うっさい! 言い訳すんな一年坊!」
胸ぐらを掴んでくる。
すると、一人の女性が刀を抜いていた。
「わからせるしかないわね」
「……校則違反ですよ」
「殺しゃしないわ。二度と近づけないような身体にするだーけ。死になさい」
私を抑えつけたまま、刀を振り下ろしてくる。
私は胸ぐらを掴み返し、グイッと引っ張ると女性の方に刀の刃が突き刺さった。
女性は声にならない悲鳴をあげる。
「ち、ちが……そんなつもりじゃ……」
「〜〜〜ッ!」
女性が刀を引き抜き、地面には血がどくどくと流れていく。
集まっていた女子生徒は騒ぎ出し、救急車だのなんだのと喚く。
「とりあえず、止血しましょう。このままだと失血死します。先輩方で回復魔法使える人は?」
「わ、私使えるけど……。でもそんな傷癒せるほど得意じゃ……」
「それでもいいです。かけ続けてください。包帯があればいいんですがないですし……。このカフェの人に包帯か、何か近しいものがあれば持ってきてください!」
「わ、わかったわ!」
肩だから止血も難しい。
突き刺した穴ではなく、切り裂かれているので尚更。事を急ぐ。
包帯があったということで私はとりあえず包帯でケガの場所を手当した。
包帯はみるみるうちに血に染まっていく。
刀の傷を受けた女性は気絶し、意識がない。
「意識が……」
「心臓マッサージ!」
「はしちゃだめです! さらに血を出すことになる! 血を出さないように傷口を上にして……」
手当しているとサイレンの音が聞こえた。
そして、救急隊の人と、学校の先生が一緒にやってくる。
「何事だ!」
「先生ぇ……」
「刀……? ここで刀を使ったのか!? なぜだ!」
「先生、まずは手当の方が優先です。その……すいませんでした」
「……事情はあとだ。頼みます」
「はい」
怪我を負った女性は連れて行かれた。
そして、その場で事情を説明する。
「なるほど。嫉妬したお前らが黒刄に喧嘩をふっかけて、黒刄がグイッと内側に引っ張るように盾にした、と」
「ごめんなさい……」
「脅しのつもりだったんです……」
「脅しだろうとなんだろうと、真剣の刃を人に向けるなど! ましてや嫉妬したなどという浅い理由で! 言語道断だ!」
怒鳴り声が響く。
「その……すいません」
「黒刄に関しては仕方ない面もあるだろう。もう少しやり方はあったかもしれんが、自分の生死に関わるようなことだったのだ」
「…………」
「君たちには相応の処分が下るだろう。刀を取り出した犯人は?」
「……私、です」
「正直でよろしい。退学処分も視野に入るのは理解しろ。そこまでのことをしたんだからな」
「はい……」
涙が枯れたのか、疲れ果てたのか、元気がなくなっていた。
説教を喰らっていると昼休みの終わりのチャイムが鳴った。が、まだ解放される兆しはない。
「先生……。あの」
「なんだ黒刄」
「本当の被害者になるのは私だったはずで、脅しだったってことは傷つけるつもりはなくて……。私が盾にしたから斬られたわけで……。私が盾にしなきゃこんな騒ぎにはならなかったはずなので……」
「だが真剣を手にしている時点でアウトだ。そもそもその結果は机上論だろう。本当に脅しだったかどうかはわからん」
「で、ですよね」
「なぜ犯人を庇う?」
「その……私に関わったことで退学になった、なんていうのは自分的に少し嫌なので……」
「なるほど。では処分は斬られた子の生死次第だな。君たちはとりあえず帰りたまえ。黒刄は私と来い。一応検査をしよう」
先生は私の手を引き、病院に連れて行ったのだった。
検査の結果はなんともなし。至って健康。よかったですね。
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