第19話
数日後の水曜日。
蒼は急遽会社が在宅勤務となり、自宅の部屋で仕事をしていた。玄関から母親と芽依が帰宅した様子が耳にしたので、1階へ降りていき、ある話を母親から聞き出した。
「あぁ、蒼。今ちょっと話ししてもいいかしら?」
「何?」
「…あのね、クリニックに行って来たんだけど、来週芽依が検査を受ける事になった」
「判定検査?」
「ええ。会話の状態に違和感が生じているから、念のため受けて欲しいって言われてね」
最近になって芽依の疾患が進行しているようだ。彼は大事に至らないように願っていた。
数時間後、仕事が終わって彼は芽依を部屋に呼び出した。彼女が以前からメイクができる仕事がしたいと言ってきたので、障がい者雇用として募集している化粧品メーカーの会社からパンフレットを取り寄せて、それを見せていた。
「美容部員?何をするの?」
「ここの会社で面接を受ける事ができるんだ」
「芽依がお仕事?」
「採用が決まればだよ」
「いいなぁ、お仕事したい。応募する!」
「これから、履歴書を作ろう。僕、手伝うよ」
2人はパソコンで会社のホームページの雇用応募欄から、履歴書のフォーマットをダウンロードして、書類を作成していった。
翌日、近くの写真店に行き証明写真を撮り、自宅に帰って、再び応募ページを開き、必要項目に入力が終わると、送信して完了させた。
2人が同時にため息をこぼすと笑い合った。
数週間が過ぎた頃、僕は彼らを昼食に誘い、芽依が応募した会社から書類選考の連絡を待っている話を聞いて驚いた。
食事を済ますと店を出て、信号機の前で待機している時、芽依のスマートフォンが鳴った。
彼女は曖昧な話し方をしていたので、蒼が替わって電話に出た。
「芽依ちゃん、この間送った会社から選考が通ったから面接に来て欲しいって。…ああ、日程詳細のメールも来たよ。良かったね」
「会社、行けるの?」
「良かったじゃん。面接できるんだよ」
「会社の人とお話ができるんだね。芽依、凄い」
すると、彼女は僕らの間に入り、それぞれ手と手を繋いできた。飛び跳ねながら歩く彼女を見て僕達は一緒に微笑んだ。
翌週の月曜日。
芽依はスーツを着て母親に綺麗に身支度ができているか確認してもらっていた。
用意が整うと、蒼と一緒に自宅を出て、面接会場にあたる応募先の会社まで行き、彼女が1人でビルの中に入っていき姿が見えなくなるま見届けていった。
昼休憩の時間になっても、芽依から連絡がかかってこなかったので、彼は上司に事情を告げて外出届を出した後に、面接先の会社に向かった。
途中スコールのような雨が降ってきたので、コンビニエンスストアで傘を買い、再び駆け足で行くと、ビルの出入り口先でしゃかんでいる人影を見つけた。
芽依が雨に打たれながら泣いていた。
彼は駆け寄ると彼女は抱きついてきて上手く会話ができなかったと落ち込んでいた。
「兄ちゃん…会社の人に嫌われちゃった。」
「それは違うよ。」
「だってみんな怖い顔していて、話を聞いていた。何で?」
「人が、怖かったの?」
「うん」
「とりあえず駅まで送るから、お家に帰ろう」
彼女に傘を渡すと、鼻をすすりながら歩く姿に彼は胸が締め付けられていた。
最寄りの駅で彼女を送ると会社に戻り、その後退勤してから急いで自宅に帰って行った。
普段通りリビングでくつろいでいた彼女の様子を見て安心して、2階の部屋へ行き着替えた後、僕に電話をかけて当日にあった出来事を話してくれた。
彼女にとってはほんの少しの冒険を1人でしたようなものだと伝えると、彼もそうだなと穏やかな声で返答していた。
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