第18話
それから数週間が経った頃、蒼は会社から帰宅して着替えをしていた時、ドアの前に人影が感じたので声をかけると、芽依が中に入ってきた。
僕は事前に近いうちに彼と同居することを話していた。それについて芽依にも話しておこうと彼女に呼び止め、机の椅子に座るように促した。
「この家を、出ようと考えている」
「どこに行くの?」
「芹沢さん…陽太と一緒に住もうと、話が進んでいるんだ。」
「いつ?」
「年内には引越ししようかなって」
「…嫌だ」
「僕もずっと親のそばで甘えていられないよ。もうすぐで30も近いしさ。きちんと自力で生活していきたいんだ」
「芹沢さんと遠くに行くの?」
「いいや。芽依ちゃんの近くにいる。引越ししても、時々家に帰って来れるし。みんなでご飯も食べれる。お泊まりだってできる。心配しなくても大丈夫」
「芽依も、兄ちゃんの新しいお家に行ってもいい?」
「もちろん。芹沢さんも喜んでくれるよ」
「そうじゃなくて…芽依も一緒に2人と住む」
「…あのね、僕は今よりもっと大人になるんだ。人はね、いつかみんなが別々に暮らす時が来て、1人で生きていかなければならない日が来る。その時に困らないようにどうすれば長生きしていけるかとか、どう周りの人にこうしたいと言える自分になるって、きちんと考えてやっていきたい。強くなりたい。だから、今のうちから、頑張ってやっていきたいんだ。みんなそうやって大人になっていくんだよ」
「難しいね」
「芽依ちゃん、今よりもっと楽しい事を増やしていきたいと思わない?」
「うん、楽しい事は好き」
「僕らは人よりもどこか一歩下がっているんだよ」
「どういうこと?」
「差別じゃないけど、誰かに後ろから指を差されて悲しい思いをしながら生きてきた事が多かったよね?」
「いっぱい友だちと喧嘩したね」
「喧嘩した分、みんな僕らから離れていってしまったよね?」
「…あった気がする」
「その分を今から僕たちで新しい楽しみやワクワクする事を集めていくんだよ」
「誰かとつながるってことかな?」
「そう。ずっとお家や同じ場所に居ないで、自分の行きたい!って決めた場所にいくんだよ」
「芽依もできる?」
「何かしてあげたい人はいる?」
「たくさんの人に芽依のメイクやファッションを教えてあげたいな」
「僕も仕事と並行して芽依ちゃんのやりたい事を探してあげる。だから、芹沢さんと一緒になる事を魔法を使って願っていてほしいんだ」
「幸せの魔法を、兄ちゃんにかけてあげたい。芽依も頑張る。芹沢さんと話がしたい!」
「今度の日曜、また3人で会おう。喜んでくれるよ」
芽依は少しずつ蒼が離れていく事に寂しさを感じていたが、彼が言った自分の力でつかむ人生の楽しみ方を聞いた事で、僅かばかりだが自信がついた気がしていた。
数日が経ち、僕は蒼と芽依を自宅に招いた。
「どのくらい好きなの?」
「地球みたいに大きなくらい。僕の気持ちをきちんと受け止めてくれる大きな心を持っているところだよ」
「地球儀ってたくさんサイズあるよね?あの大きさかな?」
「テレビで見たことあるじゃん。地球は手で持てないくらい大きいんだよ」
「芽依、芹沢さんに潰されちゃうくらい大変な事になりそうだ」
「好きな人を思う気持ちは皆それぞれだよ。芽依ちゃんも好きな人ができたら、相手を受け止める思いを抱えてあげないとね」
「潰されないように鍛えなきゃ…」
「あまり心配しなくてもいいよ。芽依ちゃんは蒼にも思いやりが誰よりも強いから、僕も負けていられないな」
「そうだ、これ描いたんだ」
彼女はバッグからスケッチブックを出して、僕にある絵を手渡してくれた。そこには、色鉛筆で描かれた僕と彼が2人で笑顔で並んでいる絵があった。
「2人で仲良く、暮らしてね」
彼女は自分なりに僕らの仲を認めてくれていた。その純粋な思いに彼は彼女の肩を優しく抱きしめた。
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