第17話

翌朝。起床して1階に降りていくと、既に蒼と芽依が起きていてテーブルに朝食の品が並べていた。

洗面所で歯と顔を洗い、着替えをした後に食事を取った。

帰りがけ母親に声をかけて昨日に買った手土産を渡すと喜んで受け取ってくれた。


両親に挨拶をして蒼と駅まで行こうとした時、後ろから芽依も追いかけてきた。彼女は昨夜のあの場面に遭遇した分なのか、彼と僕の間には並び僕らの両腕を組んで顔が綻んでいた。


「みんな、一緒って良いよね」


彼女のさりげない一言に僕らも笑みを浮かべていた。駅で2人と別れた後、電車に乗りながら僕は蒼に何か特別な贈り物をしたいと考えていた。


一方、蒼は家族がキリシタンという事もあり、皆で礼拝堂に来て祈祷を受けていた。礼拝が終わると用があるから先に帰って欲しいと言って、誰もいない座席に1人座っていると、神父が彼のところにやって来た。


お互い顔見知りという事もあり、時々相談ごとを持ちかけることがあると、時間を作ってくれて話を聞いてくれるという。

彼は最近僕と付き合うようになってから、未だにどう接すればいいのか1人で悩んでいた。


神父はある程度の話を聞いて、一度席を立ち、ある物を持ってきて再び席に着いた。


「同性カップルのコミュニティですか?」

「都内にもいくつか集いの場があるんです。もし蒼さんが良ければ彼らと話をしてみるのも、いいかもしれません」


持っていた冊子をもらい、ひと通り読んでから、行く事を考えると伝えた。


自宅に帰って自身の部屋でパソコンからコミュニティサイトをいくつか閲覧し、彼がある項目に目が留まった。


「レインボーフロンティアライン…」


区で運営する非営利団体が主催するコミュニティ施設で、予約制になるが随時参加の募集をしていると記載してあった。彼は早速連絡をして予約を入れた。


翌週の土曜日。施設が入るビルに到着して、中に入っていくと何組かの若いカップルが集まっていた。開催時間になり代表の人の挨拶が終わると、相席になったカップルとの会話が始まった。20代のゲイ、レズビアンのカップルと彼の3組が一つになり、自己紹介をして近況を話していった。


蒼の番になると、2組のカップルが遠慮なく話してくれと言ってくれた。


「今、30代の男性と付き合って3か月が経ちました」

「彼はどんな人?」

「素直な人です。僕、女装をする事があるんですが、躊躇ためらいもなく接してくれて…ただ、どこかで無理をしているんじゃないかと思うんです」

「それについて話し合うことは?」

「していないんです。その格好をしても綺麗だとか、その日に着てきた服が似合ってるとか、ありきたりな答えしか返ってこないんです。」

「成澤さん、今度彼に本音をぶつけてみるのもいいかもしれないよ」

「怒られても、大丈夫でしょうか?」

「感情的になった場合には、何が不安なのかと正直に聞いてみるのが一番ですよ」

「喧嘩はつきものだけど、お互いが不満を溜めてしまうと、ギスギスした関係が続いてしまうよ。そうなった時もどちらかが冷静にならない限り、相互関係を続けるのは難しくなるかも」

「いつか、そうなりそうな気がして、自分に自信がないんです」

「セックスとかコミュニケーションは取れている?」

「今のところは…気持ちは安らぐ感じはあります」

「ただセックスするだけでなく、もっと何を求めたいか伝えないと、バランスを崩す事もなり兼ねないしね」

「皆さんは今は同棲されているんですか?」

「僕らはまだだよ」

「私達は2年暮らしている」

「親御さんは知っているんですか?」

「一応ね。付き合っていることも知っている」

「一緒に住む事は考えているんですか?」


蒼は言葉につまづいた。


僕と一緒に暮らす事。

その前に頭に浮かんだことは芽依の事だった。

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