第15話

翌日。会社に出勤した後、近しい同僚に数名声をかけて週末に飲み会を行いたいと誘った。


僕から声をかけられる事が珍しいと言ってきたが、皆都合を調節してくれた。


金曜日の夜、一駅隣の場所にある居酒屋に集まり、注文をした後乾杯をした。あれこれ雑談をしてから本題の話になった。


「新しい恋人って誰?」

「写真見る?」


スマートフォンの写真に写る蒼を見せると、皆が凍りつくように静まり返った。何故男が写っているのか、女性の顔を見せろと言ってきたので、女装した彼の写真を見せると、更に黙り込んでいた。


「あのさ、いつから男に媚びを売るように色目使うようになれたんだ?」

「そういう言い方ないじゃん。でも、いいじゃん?芹沢さんが好きになった人なんだし」

「部長達が知ったら、あご抜かしそうだな」

「そこなんだよ。付き合うのは良くても、一生そうしているのかって突かれそうでさ」

「そこを俺らが徐々に話を入れてきて、説得させていくってか?」

「みんなが頼みの綱なんだ。最終的には俺から話すけど、今の会社辞めるわけにいかないしさ」

「辞める辞めないにしたって、どこ行っても反応は一緒だよな。とりあえず軽く摘むように話していくか?」

「…お願いします」

「それにしても、よく会えたよね。紹介してくれたの?」

「あぁ。」


本当の事は言えないが、それ以外の理由を教えてあげれば納得はできてきそうだ。


「こういう事を言うと煙たがれるけど、彼を…愛してあげたいんだ。」

「どういうところを?」


「向こうもずっと周りにひた隠して生きてきた人なんだ。同情とは違うけど、知れば知るほど人柄の良さが分かってきてさ。自分も女性ばかりが当たり前かと思ってきたけど、あいつに会って改めて考えさせられた。」


「本当に、大事にしたいんだね?」

「うん。やっと大事な人が見つかった。譲ることもしたくないしさ」

「お前も素直で人ができているなぁ。よし!追加で何か頼もう!」


当初はあまり当てにはしていなかったが、意を決して打ち明けるとそれなりに皆が僕のことを承諾してくれた。

次の飲み会に蒼を連れてきて欲しいと言ってくれた人もいた。自分を信じていれば必ず誰かが見てくれる。僕は堂々としていていいんだと実感していた。


1週間後の土曜日。蒼がお揃いの品物を買いに行きたいと言い出して、有楽町駅の周辺に来た。一緒に建物内に入っていくと、どこかで見たことのある内装だった。


恐る恐る募る中、エスカレーターで登っていくと、あるジュエリーショップの前に立ちすくんだ。


間違いない。元カノが働いている職場だ。


彼に1人で見に行ってきてと言うと何故だと即答してきたので、仕方なく店内に入っていった。

辺りを見回してみたが、加奈の姿はなかったので、胸を撫で下ろした。


指輪を探していると、担当の店員が交代になると言われたので、顔を見上げた途端、全身が硬直した。

加奈だった。お互いに顔を合わせると驚いて数秒間は沈黙していた。


蒼は加奈に指輪をいくつか見たいと伝えると、お勧めがあるので、用意すると言い、僕に冷たい視線を送りながら、数点ショーケースから出して提供してくれた。


僕は居ても立っても居られなくなり、彼に声をかけて店を出た。彼もすみませんと会釈をして僕の後を追いかけた。


「ちょっと…ねぇ陽太ひなた。待ってよ」

「…これから二子玉川に行こう。」

「今から?」

「前に同僚から教えてくれたショップがあるんだ。そこで買おう」

「もしかしてさっきの店員さん、加奈さん?」

「…ああ。今日いると思わなかったから。とりあえず行こう」


僕は彼の手を繋いで数本電車を乗り換えて、二子玉川のショッピングモールへ行き、ジュエリーショップへ入って、彼に好きなデザインのものを選ばせてお揃いのペアリングを買ってあげた。

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