第12話

翌日の午前中。

日頃からの疲れからなのか、蒼はベッドの中で爆睡していた。


キシキシと足音が聞こえてきたが全く気づかずに眠りについていた。

何かが彼の顔に近づいて鼻頭をある物でくすぐり続けている。

次第に痒くなってきて目を覚ますと、芽依がチークブラシでくすぐっていた。

蒼は驚いて大声で叫び飛び起きた。


「黙っていないで、声をかけてよ。びっくりしたなぁ…」

「浮気者」

「え?」

「いつもみんなに内緒で芹沢さん家に泊まってくるの。」

「どこが浮気だよ。そんな風に言わないで」

「ねぇ耳貸して…芹沢さんに告白できた?」

「うん。できたよ」

「向こうはなんて言ってた?」

「好きだって言ってくれたよ」

「友達になるの?」

「うん。仲良くしようって話した」

「良かったね」

「芽依ちゃん、魔法が効いたみたいだね」


芽依はあまりの嬉しさに蒼の身体を揺すったり、はしゃいでいた。天井を向きながら指で何かを数え始めたので何をしているのか尋ねたら、次の日曜日に陽太ひなたに会う約束をするのにいつの時間に電話をしようか、考えていると返事をした。


彼女に3人で会いたいのかと聞いたらそうだと答えたが、彼は2人だけで会うと伝えた。

何故だと言ってきたので、彼女の手を取り、大事な話をすると言ってみた。


「僕、芹沢さんと付き合う事にしたんだ」

「…兄ちゃん、彼女のフリをするの?」

「違うよ」

「お芝居するの?」


「あのね、ずっと前から言わなきゃ行けない事があったんだ。僕…男の人が好きなんだ」

「意味わかんない」


「そうだよね。でもね、女の人には正直結婚とか付き合いたいとか、そういう意識がないんだ。」

「じゃあ兄ちゃんは将来男の人と結婚するって事?」

「結婚はわからない。ただ恋人のように好きになった男の人と付き合いたい事は…」

「つ、付き合うの?」

「うん。だから、今直近で好きな人は芹沢さんなんだ」


芽依は頭が混乱してどうすればいいのか、次第に不安になってきた。


「兄ちゃんは、芽依の事が嫌いになった?」

「それは違うよ。兄ちゃんは芽依が大好きだ。お父さんもお母さんも好きだよ。」

「芹沢さんと…遠くに行っちゃうの?」

「遠くには行かない。みんなの近くにいる。会社だって辞めない。だから…」

「お母さんに言ってくる!」

「待って!まだ誰にも言わないで…おい、芽依!」


芽依は一心不乱になって1階のリビングにいる母親の所に行き泣きわめいた。何があったのか聞くと、蒼と喧嘩したと言った。


「兄ちゃんのバカーーーっ!」


家中に彼女の泣き声が響き渡り、しばらくはその声を聞きながら、彼もまた頭を抱え込んでいた。


30分ほど経ち、落ち着いたのか泣き声が止んでいたので、ゆっくりと静かに階段を降りて1階に行くと、ソファで母親の太ももにぐずりながら抱きついている彼女の姿が目に入った。


母親が蒼に気づき、何故口論になったか尋ねてきたので、少しきつい言葉で突き放したと言って誤魔化した。

芽依は横目で彼を見ては睨んで、また母親の身体にしがみついていた。


彼は謝って言葉をかけたが聞く耳を持たずという状態でいたので、再び2階の部屋に戻っていった。


机の椅子に座り、スマートフォンを開いて陽太ひなたに電話をしようかと番号を眺めていたが、芽依に聞かれたら火に油を注ぎそうになると考えて、スマートフォンを裏返しして置いた。


彼女に話したタイミングが悪かっただろうか。彼は気をんでいる気持ちが収まらなかったので、テレビをつけて、ヘッドホンをかけゲームをして気を紛らわせていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る