第11話

数日後、昼食後に会社のデスクに戻ると同僚から最近顔色がいいから何かあったのかと問われた。

とりあえず仕事が順調だと答えると新しい彼女でもできたのかと聞かれたので、そうだと伝えると紹介して欲しいと言ってきた。


言っておくが相手は男だ。


俺は誰にでもモテる人間なんだ…などと言えるわけもないが、蒼に対して愛情が芽生えたのは確かな事だった。


20時。浴室から出てタオルで頭を拭いていると、スマートフォンから着信が何件か来ていた。実家の母親からだった。


「あんた、今日誕生日でしょう?36歳ね、おめでとう」


すっかり忘れていた。

自分の誕生日の祝杯さえも10年以上は通り過ぎていたものだったな。誰からも祝うことのなかったなと気付かされた。やはり家族はいて欲しいありがたい存在だと感じた。


続いてメールを開くと、蒼からも来ていた。また近いうちに会いたいか。実は今日誕生日だったんだと返信をすると、着信が鳴ったので出てみたら、今週末家に行くから部屋を片付けておいてくれと返してきた。


更に数日後の土曜日、夕方に蒼が家に来た。

今日は勤務があったようでスーツ姿だった。

両手に荷物を抱えていたので何事かと聞くと、遅くなったが、誕生日のお祝いをしようと少し高級なスーパーで買い出しに行ってきたという。


台所に立ちピザやオードブルを取り出してオーブンレンジで温めていき、併せてテーブルに赤ワインも並べた。

ワイングラスに注いで乾杯をして、お互いの仕事などの話をした。


彼は僕との会話が一番楽しくとても充実した日々を送る事ができているとも告げてくれた。そうしているうちに僕らはある昔話をし始めた。


「昔、幼稚園くらいの時かな。うちでシマリスを飼っていて、ケージから出すと決まってというほど、母親が身につけているエプロンのポケットに入ってくるくらい、人懐っこくてさ。父さんも僕や芽依にも懐いてきて可愛がっていたんだ。ただ冬場になって、ある朝にタオルで被せたケージを開けたら、巣箱の中で死んでいたんだ。芽依が泣きわめいて、僕からお墓を作ってあげようって言ったら、泣き止んでさ。庭の隅にある木の下の所に穴を掘って、埋葬してあげたよ。」


僕はその話を聞いていると、無性に悲しくなり、蒼の目の前にして滝のように号泣していた。どうしたかと問われたので、ある事を思い出して、ぐずりながら話しをした。


「俺も…小学生の時に仔犬を飼っていてさ。…でも、生まれつき心臓が弱かったから半年くらいしか持たなかったんだ。生き物を飼うって…本当に大変だよな…こういう話に弱いんだよ…」


彼は僕を見かねて微笑み、ティッシュ箱を渡してくれたので、何度か鼻をかんだ。

大の大人がこんなに弱々しいのでは元カノにも飽きられてフラれるのも当然だ。しかし、彼はそれでも貴方は貴方だから、泣きたい時は泣いていいのだと慰めてくれた。

彼は僕の肩に寄りかかり腕を組んできた。


「ねぇ、まだお互いに告白とかしていなかったよね。」

「そうだな。何も言ってなかった」

「陽太、僕ら付き合おう。…まだ男が相手じゃ苦手意識も強い?」

「お前に対しては違う。不思議だけど…今まであった違和感がないんだ。ずっと胸が熱くなっている。自分にも優しくなれている。だから蒼には正直でいたい。」

「いつか必ずみんな分かってくれるよ。だから、堂々としていればいい。僕の前では…素直でいて…ね?」


ワイングラスをテーブルに置き蒼の頭を撫でて額にキスをした。

彼は優しく笑ってくれた。

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