第9話
「また、家に行きたい。いいかな?」
店を出てから、しばらく歩いている時に蒼が話しかけてきた。赤ら顔の僕はいいよとうなずくと、彼は腕に手をかけてきた。
鼻で笑い、顔がニヤついた。ワインで仕上がった脳内が彼の時折見せる仕草に気持ちが完全に浮ついていた。
「帰ったら、しようか?」
「何を?」
「…分かってるじゃん。」
ダメだ、僕は壊れた。
彼をこのまま抱きたいという思いが駆け巡っていた。女装姿の彼が女性に見えて幻覚を起こしてる気分だ。
自宅に着いて、少しは酔いが覚めるかと思ったが、蒼の姿を見ては顔が綻ほころんでしまう。
ソファにコートとバッグを投げ捨てるように置いて、彼もコートをハンガーにかけ壁にかけると、僕の方を見てきた。無言でベッドに指を差し、座ってくれと促した。
彼は俯いて立ったままでいた。僕は近づいて正面に立ち、彼の肩に手をかけてしばらく見つめていた。
「怖い?」
「少し。男性とあまりした事ないから…」
「どこまで許せる?」
「一応、ひと通りは大丈夫」
僕は肩をかけたままベッドに座らせて、横に並ぶと、彼のくっきりとした顔立ちが視界に入った。頬に手を添えると彼は目を
お互いの唇を重ねて舌を絡め始めると、彼は息遣いがやや荒くなっていた。ベッドに仰向けに寝かせて、彼の上体にまたがりキスをし続けた。上着を脱がせて下半身に手を弄っていくと、彼は唇を噛んで僕の目を見つめてきた。
「このまま続けるよ」
「うん」
身体が熱くなってきた。僕も服を床に脱ぎ捨てて、明らかに骨格の硬い彼の身体を抱きしめると、互いの硬くなっている一物同士が当たっているのに違和感を感じていたが、疼く身体が神経を麻痺するかのように、僕は勢いよくスカートを脱がせてモノを口で咥えた。
蒼はうめき声を発して僕が夢中で愛撫している様子を見て、興奮していた。
「芹沢さん」
「何?」
「全部脱いで」
再び彼の顔に近づき上体を起こして唇を交わした。
「ウィッグ、取ってくれないか?」
「邪魔?」
「素顔のお前を抱きたい」
蒼はウィッグを取り外して、僕にしがみつくように身体を抱きしめてきた。
「名前、
お互いの温もりを確かめ合うように僕らは2時間情交に更けていった。
深夜2時が過ぎた頃、少し寝冷えしたのか、トイレに行き、通りかかった洗面台の前の鏡を見た。口のまわりがリップで舐め回されたようにべったりと赤く添付していた。
既に酔いが抜けて我に返った姿に恥じらいを感じていた。石けんで顔を洗いなんとか拭き取ることができた。
ベッドに戻ると裸の蒼が目に写り、少し青ざめてしまった。
僕はつまり、彼と最後まで行為をしたのだろう。
何事もなかったかのように眠る横顔を見つめて、部屋着を着た。いや、このままだと彼も風邪をひいてしまう。肩を叩いて彼を起こし、部屋着を着るように告げると寝ぼけたまま服を着て、また眠りについた。僕も隣に背を向けて眠った。
7時。心地の良い中で目を覚ますと、蒼は既に帰っていた。スマートフォンに1件通知が来ていたので、開くと彼からだった。
"昨夜はありがとう。また芽依が騒ぎ立てそうだから先に帰る。また連絡します"
どこへ行くにも芽依の事が気がかりな弟、か。それに至っては仕方あるまい。いつかは彼女も自立して1人で生きていかなければならない事に直面するだろうし、いつまでも家族とも付きっきりにはいかないのだ。
他人の僕が首を突っ込む事ではないかもしれないが、蒼もまた周りと違った思いを抱えているうちの1人だ。
もしかすると、僕もその渦中にいる人間なのかもしれない。
男と女、人と人。
触れ合う度に傷も重ねていくのかと考えると、彼を違う視点から見守ってあげなければならないのか。
今後も受け入れてあげられるのだろうか。
彼の事がますます知りたくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます