第44話 僕、一生懸命にがんばります!
「でも、ユウキの……知識、も重要」
「え、俺の知識?」
自身を指さして目を丸くするユウキをチラッと見て、でも、すぐさま目をふせてオリヴィアはこくりとうなずいた。
「ユウキの前世の国や、世界のものを……ただ、並べて飾るだけ、じゃ……研究とは言えない。それがどういう、もの……なのか。どうやって使う、ものなのか。そういう情報を……説明として、載せて……系統立てて整理、して……まとめるには……ユウキの知識が絶対に必要、だから」
「ユウキのスキルと知識、両方があってやっと研究としての体裁が整う。それを足がかりに研究室と研究室にこもる権利を得る……ということですね。さすがはオリヴィア姉様です!」
ネコをかぶった末っ子王子スマイルでそう言ったけれど本心だ。さすがは本の虫。本を読むのも、机に向かうのも、コツコツ何かをやるのも大嫌いな俺ではユウキのスキル〝すーぱーのたなか〟で出したものを整理し、まとめ、研究対象にしようなんて考えつかない。
「まずは……スキルで出したもの、を、できるかぎり保存。〝さんどいっち〟の材料、みたいに……中身を消費、してしまうもの……保存しておけない、もの……なら、その情報を絵や文章として、残しておく」
「ジョージ様が自身のことやそれ以前の転生者について調べ、本としてまとめたように、ですね」
「……ん。それと……〝しょくぱん〟や〝かぼちゃさらだ〟が入っていた袋に書いてあった文字。あの文字を、訳して……必要であれば説明も付け加えて……それも、本としてまとめる」
やることは盛りだくさんだ。
「ユウキの、役割は……スキル〝すーぱーのたなか〟で出せそうな、ものを……リストアップ、して……優先順位を決めて、出す……こと」
「優先順位を決めて、ですか」
「……」
ユウキに尋ねられたオリヴィアが助けを求めるようにチラッ、チラ……と俺を見る。多少、マシになったと思っていたオリヴィアの人見知りだけどどうやらユウキに対してはしっかり、ガッツリ、いまだに発動しているらしい。
「ユウキと、それに僕も。スキルを使うと魔力酔いを起こして倒れてしまうでしょう? それに魔力切れの心配もある。スキルを無尽蔵に使えない以上、研究の対象として向いていそうなものや重要そうなものを優先して出した方がいい。……ということですよね、オリヴィア姉様」
「……ん」
「なる……ほど」
なんて言ってうなずいているユウキだけど俺の話なんてうわの空でちょっと傷付いた顔をしている。この場にいる中で自分だけがオリヴィアの人見知り対象になっていることに気が付いてしまったのだろう。
末っ子王子とはいえ王族である俺がわざわざ説明してやっているのにうわの空とはいい度胸だな、と思ったけど今回は許してやろう。なんだかかわいそうだから。
「文章を、考えたり……訳した文字をまとめる、のは……私、がする。絵は……」
「音楽も料理も、それどころか絵を描くのだって得意なこのオクタヴィアさんにお任せあれ!」
ドーン! と胸を叩くオクタヴィアにネコかぶり中の素直でかわいい末っ子王子な俺と元から単純なユウキはパチパチと手を叩いた。
「音楽や料理だけじゃなく絵を描くのも得意なんだな、オクタヴィアは」
「すごいね、オクタヴィア!」
「その才能、俺にも一つくらい分けてほしかった……」
ガックリと肩を落とすユウキの背中を心の底からの同情となぐさめを込めてポンポンと叩きつつ、フフン! と胸を張るオクタヴィアをチラリと見る。
オクタヴィアとオリヴィアの反応からして歌や料理だけでなく本当に絵も上手いのだろう。ずいぶんと多才だ。なのに、あふれだすポンコツ感は一体、どこから来るのか。
「あーーーっと、リヴィのお茶が残り少ない! このままではリヴィが干からびてしおしおになってしまう!」
「そんなに、すぐ……しおしおに、ならない……から」
「ほぉら、リヴィ。お茶を淹れたよ。あーーーっと、ちょっと待った! かわいいリヴィが口の中をやけどしてしまう! 今、フーフーしてあげるからねー。フーフー」
「タヴィ、やめて。せめて、人前では……やめて……」
オリヴィアに対する過保護っぷりがポンコツ感の源な気がする。
「スキルを使って前世のものを出したり、前世の記憶を元にオリヴィア姉様が文章を考えたり、訳したりするのを手伝ってり……ユウキはやることが多そうだね」
元気いっぱい過剰に世話を焼くオクタヴィアとなんだかんだでオクタヴィアの成すがままされるがままになっているオリヴィアのやりとりをネコを深々とかぶったきゅるん☆ とかわいい末っ子王子スマイルで見守りつつ、とっとと話を進める。
「この国、この世界にはない前世のものの説明かぁ。上手く説明できるかな。すごく不安……」
笑顔を引きつらせるユウキに顔を向けてニコニコと微笑みながら、俺は内心でにんまりと笑っていた。
今回のオリヴィア立案〝ユウキの前世について研究して研究室と安心安全引きこもり生活を手に入れよう作戦〟。
研究を主動するのはオリヴィアで、研究対象はユウキ、挿絵担当はオクタヴィア……といったところだろうか。
スキル〝すーぱーのたなか〟を使うときやユウキと人見知りのオリヴィアが話をするときには俺も手伝うようだろう。でも、せいぜい手伝う程度。俺がやるべきことは大してない。
乳兄弟であるユウキが転生者でスキル持ちなのをいいことにテキトーに研究を手伝って、全力で安心安全な引きこもり生活を満喫できるというわけである。
最高の展開だ。
「それで、ね……アル、バート」
「はい! なんでしょうか、オリヴィア姉様!」
内心のにんまりがもれ出ないようにと思いながらも隠し切れないにんまりに、いつも以上にキラッキラの末っ子王子スマイルで顔をあげた俺は――。
「アルバートには……研究室をもらう、ための……交渉、とか……研究室を、維持……するための報告、とか……そういうのをお願いしたい、の」
オリヴィアのその言葉に笑顔が引きつりそうになるのを感じた。
でも、感じただけ。長年、ネコをかぶっている俺をなめないでもらいたい。脱走直前のネコのしっぽをギリッギリのところでつかんで深々とかぶり直すと、引き続きキラッキラの末っ子王子スマイルでうなずいた。
ネコをかぶっている素直でかわいい末っ子王子のお返事としてこれ以外の選択肢はない。
「わかりました、オリヴィア姉様。僕、一生懸命にがんばります!」
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