第42話 テーブルの発掘がまだなんです!

「オリヴィア姉様、オクタヴィア……あの、起きてますか? 大丈夫ですか?」


 かぶった俺はオリヴィア、オクタヴィアの部屋のドアをノックするとネコを心配そうな声で尋ねた。

 ちなみにノックをする前にドアノブにふれてオリヴィアがスキルをかけていないかも確認済み。スキルがかかっていないところを見ると再び引きこもってしまったというわけではなさそうだ。

 となると――。


「ただの寝坊かな」


「ただの寝坊だろうな」


 なんてユウキとひそひそ話しているあいだにガタッ! ドタン! バサ、バサバサ……ズササァァァーーー! ……! バタバタバタ! とにぎやかな音が部屋の中から聞こえて来た。

 恐らくは俺たちの声に驚いて飛び起き、カーテンのすき間から差し込む日差しで寝坊したことを察してベッドから転がり落ち、その拍子に積み上げられた本やら何やらが雪崩を起こし、声にならない悲鳴を上げつつ、とにかくまずはドアを開けて返事をしなくてはー! となってドアに走り寄り――。


「おはようございます! アルバート様、ユウキ! 生きてます! 引きこもってません! 寝坊しました! 朝食、終わっちゃいましたか!?」


 スパーーーン! といきおいよく部屋のドアを開けたオクタヴィアが元気いっぱい、顔を見せた。


「おはよう、オクタヴィア。片付け始めてるとは思うけど調理場にならまだ料理が残ってるんじゃないかな」


「ありがとうございます、アルバート様! ちょっくら大急ぎで取りに行ってきます!」


「……って、そ、そそそその格好で!?」


 寝坊しました! というだけあってオクタヴィアはわかりやすく寝起きな格好をしている。柔らかな薄茶色の髪はボサボサ。目には盛大に目ヤニがついてるし、口からあごにかけてよだれのあとが白く残っている。ユウキが動揺しているようすからして薄手の寝間着姿のままキッチンに向かわせるのもまずそうだ。


「ユウキ、調理場に行ってオリヴィア姉様とオクタヴィアの朝食をもらってきてくれる?」


 きゅるん☆ とかわいい末っ子王子スマイルでユウキに〝お願い〟する。俺の全力のネコかぶり笑顔に一瞬、げんなりとした顔になったユウキだったけどうなずくとすぐに駆け出した。


「わかった。急いで行ってくるよ」


「そんな……悪いよ、ユウキ!」


「オクタヴィアはまず着替えよう。ね?」


 ユウキのあとを追いかけて部屋を出ていこうとするオクタヴィアを見上げてにっこり。かわいい末っ子王子スマイルで立ちふさがる。末っ子王子とは言え王族である俺を押しのけて行くわけにはいかない。俺の顔とユウキの背中を交互に見て――。


「ありがとうございます、アルバート様。昨日に引き続き、今日も朝からご迷惑をおかけしてしまって本当にもうしわけありません」


 オクタヴィアはガックリと元気いっぱいに肩を落とした。


「気にしないで、オクタヴィア。オリヴィア姉様のことが心配でここ数日、きちんと眠れてなかったんでしょう?」


「それもありますが……リヴィ一人で引きこもっていたこの三日ほど、片付けも何もしてなかったせいで昨夜、部屋に戻ったらひどいことになっていて。ベッドもすっかり本に浸食されてしまっていて、ふとんを発掘するだけでも明け方近くになってしまって……」


「えっと、なんていうか……大変だったね、オクタヴィア」


「まったくですよ。本当にもう……リヴィは私がいないとダメダメなんですから……!」


 ドアに額を押し付けて元気いっぱいに絶望しているけれど、それでもなんだかうれしそうなオクタヴィアに俺は苦笑いした。

 と――。


「おは、よ……アルバート……」


 ドアに額を押し付けて絶望している背の高いオクタヴィアの脇の下からひょこりと小さくて細い姉・オリヴィアが顔を出した。どうしてそんなところから顔を出すのだろうかと思いはするけれど、素直でかわいい末っ子王子のネコをかぶっている今の俺にツッコむことはできない。

 そんなわけで――。


「おはようございます、オリヴィア姉様」


 きゅるん☆ とかわいい笑顔でそう言った。


「昨日、約束……した……話、したい」


 元々、口数が少なく、ゆっくり話すオリヴィアだけど寝起きということもあってなおのこと口調がたどたどしい。

 でも、〝話はまた明日〟という昨夜した約束はきちんと覚えているようだ。


「でも、私の部屋……今……」


「誰かを入れられるような状態じゃありません。無理です。絶対に無理です」


 ピシッと背筋を伸ばし、オクタヴィアが両腕を広げてドアの向こうに広がる惨状を隠した。まぁ、ドアに額を押し付けて絶望しているあいだにすっかり見てしまったのだけど。

 大量の本が積み上げられて冗談抜きで足の踏み場がない状態だった。どうにかふとんを発掘して寝る場所を確保したと言っていたけど、さぞや大変だったことだろう。

 そんなわけで――。


「アルバートの、部屋……行っていい?」


 多分、そうなるだろうなと予想していたとおりのオリヴィアの言葉に俺はにっこりとうなずいた。


「もちろんです、オリヴィア姉様。朝食も僕の部屋で食べてください」


「助かります! テーブルの発掘がまだなんです!」


「……助、かる」


 テーブルの発掘ってなんだ、散らかした本人が〝助かる〟ってなんなんだ、とツッコミたいところだけど素直でかわいい末っ子王子がそんなことを言えるわけがない。

 ネコをかぶった末っ子王子スマイルを貼り付かせて言えることといえばこれくらいだ。


「それじゃあ、僕はユウキに朝食を僕たちの部屋に運ぶように言ってきますね。オリヴィア姉様とオクタヴィアはゆっくりと着替えて準備ができたら来てください。……朝食を食べてお話が終わったらテーブルの発掘がんばってくださいね!」

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