第37話 八枚切りの食パン!
小アーリス城一階の自室に戻ってくるなり両手をつないで輪を作った俺とユウキを見てオクタヴィアが不思議そうな顔になった。
「アルバート様、ユウキ。どうしてリヴィの夜食を用意するのに手をつなぐんですか?」
「ユウキのスキルを使ってオリヴィア姉様の夜食を用意するつもりなんだ。ユウキは魔力がないから僕の魔力でスキルを発動するんだよ」
「ユウキのスキル?」
繰り返してオクタヴィアはさらに不思議そうな顔になる。
ユウキが魔力なしなこともスキルなしなことも小アーリス城に住む者なら誰でも知っている。そのユウキがスキルを使うというのだからオクタヴィアが不思議そうな顔をするのも当然だ。
「多分、ユウキは……転生者」
ソファに深々と腰かけ、空腹でぐったりしていたオリヴィアがか細い声で言った。
「転生者は、前世の記憶を思い出したとき……スキルが使えるようになるって……」
転生者に関する本に書いてあったのだろう。オリヴィアの言うとおりだとかわいい末っ子王子スマイルでうなずいてみせるとオクタヴィアが目を輝かせた。
「ユウキが転生者!? すごい! ユウキ、すっごいね!」
キラッキラの目でオクタヴィアに見つめられてユウキは照れ隠しにぽりぽりとえり首をかいた。
ユウキが転生者だと知っているのは俺と父様、それとラルフ。でも、状況や性格的にユウキが転生者だと知っても手放しにほめたり感動したりという感じではなかった。
オクタヴィアの反応ににやけた顔でぽりぽりぽりぽりとえり首をかいているユウキに末っ子王子スマイルでにっこり。
「ほら、ユウキ。姉様をあまり待たせるわけにもいかないし、始めよう」
話を進めるよううながした。
心の中ではクソ末っ子王子スマイルでにやにや笑いしていたのだけどユウキも察したらしい。せき払いを一つ。えり首をかくのをやめて手をつなぎ直すと――。
「スキル〝スーパーのタナカ〟!」
「おぉ~!」
スキルの発動を〝宣言〟した。足元が金色に光り、〝場〟が展開され、オクタヴィアが歓声をあげる。
次にするのは欲しい商品の名前を言って錬成だか召喚だかをすること。
「今から作るのはサンドイッチ。カードゲームが大好きな〝サンドイッチ伯爵〟って人が考えた料理、らしい」
らしい、と言うことは前世の父親なり母親なり誰かなりからの受け売りなのだろう。
「カードゲームをしながらでも食事を取れないかって考えたサンドイッチ伯爵はパンに具材をはさんだ料理を作らせた。それが……」
「〝さんどいっち〟!」
「……〝さんどいっち〟」
元気いっぱいに手を打ち合わせるオクタヴィアだけでなく、腹の虫をクゥークゥー言わせているオリヴィアもか細い声で復唱する。
「俺がサンドイッチを作るのもカードゲームをやるときだったんだ。まぁ、カードゲームと言ってもサンドイッチ伯爵と違ってトレーディングカードゲームだったけど」
なんて言いながらユウキは深呼吸を一つ。
「できあいのサンドイッチでもいいけど、やっぱり……八枚切りの食パン! それとパックサラダシリーズのポテトサラダ、マカロニサラダ、カボチャサラダ。……んー、ごぼうサラダもいっとこう!」
〝さんどいっち〟の材料なのだろう言葉を口にする。すると〝おかゆ〟や〝さらだちきん〟と同じようにつるつるの素材に包まれたものがポン、ポポポン! と現れた。
「〝さんどいっち〟を作るなら魔力酔いで倒れる時間も頭に入れておいてね、ユウキ」
「了解、アル。それじゃあ、オクタヴィア。手伝ってもらえる?」
「もちろん! 料理なら任せとけー!」
〝さんどいっち〟の材料を抱えてテーブルに向かうユウキのあとをオクタヴィアは元気いっぱいに拳を振り上げながらついていく。
そんなオクタヴィアのあとをソファから起き上がったオリヴィアもちょこちょことついていく。ユウキのスキル〝すーぱーのたなか〟と、錬成だか召喚だかされた材料に興味津々のようだ。
テーブルに置かれたまな板と包丁、スプーンはユウキが事前に用意しておいたものだ。
〝ぱっくさらだしりーず〟の〝ぽてとさらだ〟〝まかろにさらだ〟〝かぼちゃさらだ〟〝ごぼうさらだ〟に比べると薄くて柔らかそうなつるつるの素材の封を開け――。
「まずは食パン」
まな板の上に〝しょくぱん〟を一枚置いた。
袋に入っているときには箱型に見えたけど薄くスライスしてあったらしい。〝しょくぱん〟一枚の厚さは一センチか二センチほどだろうか。
ユウキにうながされてオクタヴィアも袋から〝しょくぱん〟を取り出す。
「このほんのり甘いにおい。〝しょく
四辺はこんがり茶色だけど中は真っ白な〝しょくぱん〟を見つめる。
いつも食べているパンは丸くてかたくて白い部分は穴がたくさん空いているけど、オクタヴィアが曲げたり指でそっと押したりしている〝しょくぱん〟は柔らかくて白い部分はきめが細かい。
「食パンの上にこのパックサラダシリーズのサラダを乗っけて具材にするんだけど……んー、俺はマカロニサラダかな。オクタヴィアは……」
「さっき、カボチャって言ってなかった? カボチャってあのカボチャ? 野菜のカボチャ?」
「うん、野菜のカボチャ。こっちの国、こっちの世界のカボチャと同じもの……だと思う」
ユウキの返事にオクタヴィアはもちろんのこと、オリヴィアも多分、目を輝かせた。表情にとぼしい人見知りな姉だからちょーっとわかりにくいけど多分、目を輝かせている。
「リヴィはカボチャ好きだもんね!」
「……カボチャ」
「じゃあ、カボチャなんちゃらにしよう!」
「はい、カボチャサラダ」
「……カボチャ」
クゥー……。
オリヴィアのキラキラのまなざしと腹の虫に見守られてユウキは〝ぱっくさらだしりーず〟の〝かぼちゃさらだ〟をオクタヴィアに渡す。
そして、オクタヴィアに見えるようにゆっくりと〝まかろにさらだ〟の封を開けてみせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます