第30話 作戦その2、立案者ユウキ。
作戦その2、立案者ユウキ――。
「世界が真っ暗になって困った神様たちが太陽の女神様に出てきてもらうためにやったこと。それはほら穴の前で宴会を開いて、歌って踊って大騒ぎすること」
「大騒ぎ!」
シャカシャン!
ユウキの作戦解説にオクタヴィアがマラカスを持った両手を振り上げる。
「太陽は沈み、一日中、夜になってしまって困っているはずなのに外はにぎやかで楽し気。不思議に思った太陽の女神様は様子を見ようとほら穴から顔を出し、そこを……」
「とっ捕まえる、と……!」
「いや、とっ捕まえるっていうかなんていうか……」
「とっ捕まえるぞー!」
シャカシャーーーン!
マラカスのなんとも間の抜けた音にあきれ顔になりそうになった俺だったけどどうにかネコが脱げないように維持。
「さぁ、アルバート様、ユウキ!」
振り返ったオクタヴィアのキラッキラの笑顔を末っ子王子スマイルで受け止めると――。
「リヴィをホイホイするために歌って踊って大騒ぎしますよー!」
「お、おー!」
「……おー」
シャカシャカシャーーーン! とオクタヴィアが振るマラカスの音に合わせてユウキとともに拳を振り上げた。
ちなみに俺が手に持っているのはバイオリン、ユウキが持っているのはおたまとフライパンだ。なぜユウキだけが楽器ではなくおたまとフライパンなのか。それは楽器がかわいそうだからだ。楽器にも楽器としての誇りがあるだろう。だからだ。うん。
「俺、あんまり歌とか楽器とか得意じゃないんだよな」
不安げな表情で言うユウキに末っ子王子スマイルが引きつりそうになる。おたまとフライパンを手に笑わせるな、ユウキ。
「もしかしてユウキ、エリナ先生にすっごく怒られたクチ?」
なんにも知らないオクタヴィアがのんきに尋ねた。
ちなみにエリナ先生というのは俺たちに歌やピアノ、バイオリンといった音楽全般とダンスを教えてくれている先生だ。
ユウキの場合は怒られたというのとはちょっと違うのだが――。
「私は歌も踊りも得意だから大丈夫! ちょっとくらいリズムが外れたってへっちゃらだから思いっきりやって! 歌って踊って大騒ぎするのが重要なんでしょ?」
トントンと軽くステップを踏んで準備運動を終えたオクタヴィアは片目をパチリとつむって見せるとマラカスを手に踊りの出だしの構えを取った。
……うん、まぁ、言葉で説明するよりも実際に聞いた方が早いだろう。
「わかった! 俺、がんばるよ、オクタヴィア!」
おたまとフライパンを構えてユウキは生真面目にうなずく。ユウキとオクタヴィアの背中をながめて俺はにっこり。雑にバイオリンを構えた。真面目に演奏しようが雑に演奏しようがどうせユウキの演奏の前ではかすむに決まっているからだ。
「それじゃあ、いくよ! 1、2、3、はい!」
こうしてオクタヴィアのかけ声とともに歌って踊ってオリヴィアホイホイ作戦の舞台の幕があがって――。
ガチャガチャ、ガッチャーン!
「~~~っ♪ ~っ~~っっっ♪」
ガッチャカンガッチャカンガッチャガッチャカンカンカーーーン!
「~っ~~~っ♪ ~~~っ♪」
カカンカガッチャカンカンカ、ガッチャーーーン!
「はい、ストーーーップ!」
速攻でおりた。
オクタヴィアの全力の制止にユウキはおたまとフライパンを手に目を丸くした。あの表情、思ったより上手にできたのになんで止めるんだ? って顔だ。
たしかにいつものユウキと比べたらマシかもしれない。相対評価ならまだ上手にできていた方かもしれない。
でも――。
「圧倒的にセンスがない!」
オクタヴィアはいつものユウキを知らないし、絶対評価的にはそういう評価になる。
「ちょっとくらいリズムが外れたってへっちゃらだから思いっきりやってって……」
「うん。程度っていうものがあるんだよ、ユウキ」
「……程度」
オクタヴィアに冷静に指摘されてユウキは涙目だ。……かわいそうに。
ここはユウキの乳兄弟にしてネコをかぶったかわいい末っ子王子様の出番だな、と俺はうるうるおめめでオクタヴィアを上目づかいに見た。
「そんなにはっきりと言わないであげて、オクタヴィア」
「アルバート様……?」
「……アル」
視界の端でユウキの顔が引きつる。余計なことを言うなとでも思っているのだろう。
うるうるおめめでオクタヴィアを見つめたまま、俺は心の中で思った。
安心しろ、ユウキ。
もちろん余計なことを言う気満々だ――!
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