第22話 書庫に行くに決まってるだろ。

 父様の部屋を出た俺とユウキはそろってため息をついた。


「陛下にはお見通しだったな」


「そうだな」


 ユウキのスキルや前世の記憶についてはもっといろいろ試したり調べたあと、ここぞというタイミングで明かそうと思っていたのに。

 さすがは一国の王というべきか。さすがは父親というべきか。


「それで、アル。このあとどうする?」


「書庫に行くに決まってるだろ。ものすごく、ものすごーーーくいやだけど結局、自分で調べるしかないみたいだしな」


「ものすごくぶさいくな顔になってるぞ、アル。ラルフ様に本のタイトルを教えてもらえたんだ。十分な収穫だろ?」


 顔をしかめる俺を見下ろしてユウキはくすりと笑う。

 そして――。


「よかったな。陛下が食べてくれて」


 そう言って俺の頭をくしゃくしゃとなでた。

 乳兄弟の兄担当といわんばかりの顔をしているユウキを唇をとがらせて見上げる。なんだかすごくムズムズする。ムズムズするけど……きちんと言わなきゃいけない。


「……ありがと」


 俺の小さな小さな声にユウキはますます兄担当といわんばかりの笑みを深くした。

 一度は唇をとがらせてそっぽを向いた俺だったけど、金色の前髪をくるくると指でいじりながら顔をあげた。ユウキの笑顔をじっと見つめ、口を開き、閉じ――。


「……なぁ、ユウキ」


 ためらいがちに言った。


「ん?」


「本当は……戦争に行きたかったりするのか?」


 ユウキの答えはない。

 でも、一瞬で青ざめた顔を見れば答えは明白だ。


「だよな。……心配するな。これまでどおり目指すは後方支援。あわよくば安心安全なアーリス城での引きこもり生活だ」


 不安げな表情で見つめるユウキにひらりと手を振って、俺は前髪をいじりながら考え込む。


 ――お前の大切な乳兄弟は本当に戦争に行きたくないのか、〝行きたくない〟と言ったのか。

 ――もう一度、きちんと考えてみなさい。


 なんて父様は言っていたけど、それ以外に何があるというのだろう。

 大体――。


 ――正直に言って私の子供たちの中で王座から最も遠い子だ。

 ――だが、次の王になれないというわけではまったくない。


 なんて言っていたけど一国の王なんて面倒くさいものになる気、はなからさらさらない。


「一体、何をきちんと考えろって……って、やめろ。ユウキ」


 金色の前髪を指でくるくるといじりながらブツブツつぶやいているとほほを突かれた。指でぐりぐりと、結構な強さで。


「まだ人の目がある場所なんだ。ほら、ちゃんとネコをかぶって」


「地味にイタイ。末っ子王子とは言え王族の俺相手にいい度胸だな、ユウキ」


 じろりとユウキをにらみつけると乳兄弟の兄担当と言わんばかりの顔で笑っている。ユウキの笑顔につられるようにして俺はにーっこりと末っ子王子スマイルを浮かべた。

 そして――。


「イッタ!」


 ユウキのすねが周囲の人たちの死角にあることを確認。思い切り蹴飛ばす。


「うるさい。言われなくてもわかってるよ」


「言動と表情が一致してなくてすごく気持ち悪い。あと暴力禁止。ダメ、絶対」


「うるさい、うるさーい。さっさと書庫に行って、さっさと目的の本を見つけて、転生者やスキルについて調べるぞー」


 なんて言いながらユウキといっしょにアーリス城の三階にある書庫に向かった俺だったけど――。


「大変もうしわけありません、アルバート様。お探しのこちらの本も、こちらの本もすべて貸し出し中なんです。オリヴィア様が借りていらっしゃって……」


「……へ?」


 一番年の近い姉――オリヴィアによってはばまれることになってしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る