第14話 ……思ってないよ。

「アルは別に陛下に……お父さんに死んでほしいなんて思ってないんだよな」


「思ってるわけないだろ」


 ユウキの言葉と悲し気な表情に目を丸くしながらも俺はきっぱりと言った。


「今、父様が死んで戦争が始まったら困る。なにせ〝切り札〟の準備も根回しもまだ全っ然できてないんだからな」


「……」


 盛大にため息をつく俺をユウキは無言で見つめる。ユウキの黒い目にじーっと見つめられて俺はフン! と鼻を鳴らしてそっぽを向き、金色の前髪をくるくると指でいじった。

 父様譲りの、金色の前髪を。


 今、父様が死んで戦争が始まったら困る。

 それに……あと、まぁ、一応。この国の国王で、仕事も忙しくて、めったに会えないけど父親なのだ。

 一応は俺の、父親なのだ。


 いつだって政務に追われて忙しいくせに末っ子王子が会いに行けばできるかぎり時間を作って話を聞いてくれるし、話をしてくれる。

 大きくて、力加減が下手くそな手でくしゃくしゃと、ちょっと痛いくらい乱暴に頭をなでてくれる。


 当日に来てくれることはほとんどないけど誕生日のプレゼントを毎年持って来てくれる。誰かに選んでもらったり届けさせればいいのに、絶対に自分で選んで持ってくるのだ。

 何才だと思っているんだと言いたくなるような子供っぽいプレゼントを渡されて反応に困ることもある。


 でも、だけど――。


「……死んでほしいとは思ってないよ」


 また話を聞いてほしいし、話をしてほしいし、くしゃくしゃと頭をなでてほしい。次の誕生日にもまた父様が選んだプレゼントを、父様から贈られたい。

 そう、思っている。


「……そっか」


 そっぽを向いて前髪をくるくると指でいじっている俺の頭を歩み寄ってきたユウキがくしゃりとなでた。

 見上げると乳兄弟の兄担当と言わんばかりの顔で笑っている。


「そっか!」


 満面の笑顔でもう一度、言うユウキになんだかものすごく腹が立ってきて――。


「イテッ」


 俺は無言でスネを蹴飛ばした。悲鳴をあげたユウキだったけどすぐさまケラケラと笑い出す。

 ……末っ子とは言え王族の俺相手にいい度胸だ、ユウキ。


「悪かった。悪かったから殴るなって。暴力反対」


 無言で拳をにぎりしめてにじり寄るとユウキは苦笑いで降参のポーズを取った。

 そして――。


「ならさ、陛下に……アルのお父さんに食事を取ってもらえるように、病気を治して元気になってもらえるように試してみたいことがあるんだ」


 そう言いながらもう一度、俺の頭をくしゃくしゃになでたのだった。

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