第7話 マーマレードと、炭酸水。
魔力がある人も無限にスキルを使えるわけじゃない。魔力にも体力と同じように限りがあるのだ。使いすぎて魔力切れを起こすことだってある。
そういうとき、魔力が残っている人から分けてもらってスキルを使うことがある――。
「――らしい!」
「らしいって……聞いたことがあるだけかよ!」
「聞いたことがあるだけですが、何か!?」
ぎょっとするユウキに俺は切れ気味で答えた。
「グダグダ言うな。ダメ元だ、ダメ元」
「ダメ元って。どんなスキルかもわからないのに、もしケガでもしたら……」
ユウキは青ざめた顔でつないだ手を見下ろした。
俺とユウキは今、向かい合って両手をつないでいる。魔力のないユウキに魔力を送るために、だ。
ユウキのスキルがどんなスキルかわからない以上、スキルの〝宣言〟をした直後に何が起こるかもわからない。
傷を癒したり、宙に光の絵を描いたり、ぬいぐるみを踊らせたりするようなスキルなら手をつないだ状態でスキルを発動しても危険はない。
でも、触れているものを凍りつかせたり、炎で周囲を丸焦げにするようなスキルだったら向かい合って手をつないでいる俺はケガをするか、最悪は死ぬかもしれない。
でも――。
「大丈夫だろ、多分」
どんなスキルかはその人の性格や得意なこと、好きなことが反映されることが多いと言われている。それが本当なら――ユウキのスキルなら、ケガをするような危険なスキルではないだろう。
大丈夫だと深くうなずいてみせるとユウキもうなずき返した。
深呼吸を一つ。
「スキル〝スーパーのタナカ〟!」
ユウキはスキルの発動を〝宣言〟した。
「やった……!」
ユウキがそう叫んだのは俺たちの足元が金色に光ったからだ。
スキルは発動した。
ちょっと体が重くなったかな、と思うくらいで特に変わったことは起こっていない。魔力が流れている感覚も、魔力を吸い取られている感覚もない。
でも、うまくいったのだろう。
たぶん。きっと。
うまくいった……のだと、思うのだけれども……。
「光っただけで何も起こってない……よな?」
足元の金色の光を見下ろして俺とユウキはうなり声をあげた。魔力を送るために手をつないでいなければユウキはえり首をポリポリ、俺は前髪を指でくるくるしながら考え込むところだ。
「〝場〟の展開をするタイプのスキル、なのかもしれないな」
「〝場〟の展開……?」
首をかしげるユウキにこくりとうなずいてみせる。
「〝場〟に入った人の動きをにぶくしたり、ケガを癒したり。リグラス国御用達の鍛冶屋には〝場〟の中に立って作りたい武器や防具を思い浮かべるだけで錬成できるスキルを持っている者もいる」
とんでもないスキルのように思えるけど、錬成を成功させるには金属の性質や武器、防具の造りといった膨大で詳細な、正しい〝知識〟を得ている必要がある。制約も多い。
気軽にポンポンと使えるようなスキルではない。
……なんて話はさておき。
「ユウキのスキルもそういう……〝場〟を展開したあとでなにかするスキルなのかもしれない」
と、あれこれ言ってみたけど多分、俺がいくら考えてもこれ以上は答えに近づけない。
だって――。
「前世のユウキしか〝すーぱーのたなか〟を知らないんだ。スキル〝すーぱーのたなか〟がどんなスキルなのか。答えにたどり着けるのもユウキしかいない」
そういうことだ。
なんだか胸がざわざわするけど。でも、とにかく、俺は〝すーぱーのたなか〟を知らない。
ユウキにしかわからないのだ。
「だから〝すーぱーのたなか〟という〝場〟で何をするか考えて試してみろ」
「スーパーのタナカですること……?」
ポリポリとえり首をかけない代わりに首をかしげてユウキは考え始めた。
「スーパーのタナカは店だ。店に行ってすることと言えば……買い物?」
「なら、〝すーぱーのたなか〟に売っていて、ユウキがほしいものを言ってみろ」
「……わかった」
深くうなずいたユウキは俺の手を握り直すと深呼吸した。
そして、少し迷ったあと――。
「……マーマレードと、炭酸水」
そうつぶやいた。
瞬間――。
マーマレードと〝たんさんすい〟なのだろうものが俺とユウキの目の前にパッ! と現れた。
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