第6話 俺のがある!
部屋の広いスペースに立った俺とユウキはごくりとつばを飲んだ。スキルを使うのに必要なのは〝宣言〟と〝魔力〟だ。
ユウキは右の手のひらを突き出すと――。
「スキル〝スーパーのタナカ〟!」
キリッとした表情で〝宣言〟した。これでスキルが発動するはずだ。
「スキル〝スーパーのタナカ〟……!」
発動するはず……。
「……スキル〝スーパーのタナカ〟?」
するはず、なのだけど……。
「……」
「…………」
「何も起こらないな。かっこよくポーズを決めたのに」
「うるさい、クソアル! クソ末っ子王子! ポーズを決めたのに、とか余計なこと言うな!」
「かっこよく、な。そこ、重要」
何にも起こらず、しん……と静まり返った部屋に俺が鼻で笑う音とユウキが怒鳴る声が響いた。
「今までスキルも魔力もなかったんだ! そんなすぐには使えるわけないだろ!」
顔を真っ赤にしたまま、せきばらいを一つ。ユウキはスキルの〝宣言〟の連呼を再開した。
「そうだな。俺もユウキもスキルを使うのなんて初めて。ユウキにいたっては魔力すらもなかった……んだもん、な……」
何度、叫んでも何も起こらないユウキを見てケラケラと笑っていた俺だったけど、自分が言ったことに顔が引きつり出す。
他の転生者のことを教えてくれたとき、メイおばさんと一番上の兄はこう言っていた。
――ここだけの話ですけどね、転生者は特別なスキルを贈られてこの世界に生まれてくるんですって。
――お祖父様の乳兄弟殿も、他の転生者も、前世の記憶を思い出すまではスキルなしだったそうだよ。
前世の記憶を取り戻すまで他の転生者たちもユウキと同じようにスキルなしだった。
でも、魔力についてはどうだったのだろう。ユウキと同じようにスキルも魔力もなかったのか、スキルはなかったけど魔力はあったのか。
「……多分、他の転生者は魔力はあったんだろうなぁ」
金色の前髪をくしゃりとかきあげて俺はため息をついた。なにせスキルなしは世界人口の半分いるけど、魔力なしはほぼほぼほとんどいないのだ。
きょとんと俺の顔を見つめていたユウキだったけど俺のぼやきの意味を理解したらしい。
「じゃあ、もしかして……スキルはあるけど魔力はないから結局、スキルは使えないパターン!?」
ぎょっと目をむいて叫んだ。
二人そろって呆然と立ち尽くしていたけれど、そのうちにユウキが力なく笑った。
「そっかぁ、他の転生者は魔力はあったのか。魔力なしの俺じゃあ、スキル持ちになっても意味なかったか。残念だったな、アル。大人しく見習い兵といっしょに剣の練習をしよう」
へらへらと笑いながらユウキはソファに戻ろうとする。泣き出しそうにも、吐き出しそうにも見えるユウキの横顔を見つめて俺は金色の前髪をくるくると指でいじった。
「……いやだね」
ぼそりとつぶやくのを聞いてユウキがふりかえる。
「何、さっさとあきらめてるんだ。まだ早い」
「いや、でも……魔力がないんじゃスキルは使えないし……」
「いいからさっさとこっちに戻って来い! 末っ子王子とは言え王族の命令だぞ!」
腰に手を当ててふんぞり返る俺を困り顔で見つめてユウキは渋々といったようすで戻ってきた。
「ユウキは戦争に行きたくないんだろ?」
「行きたくないっていうか、なんていうか……、……っ」
「ほら、見ろ。やっぱり行きたくないんじゃないか」
言葉を切って口を手でおおうユウキにフン! と鼻を鳴らす。前世の記憶を思い出して、また吐きそうになっているのだろう。
「腹立たしいことにユウキは俺よりも運動神経がいい」
「ん? うん、まぁ……?」
急に話が変わって戸惑っているのだろう。ユウキはきょとんとしながらもうなずいた。
「剣も俺より筋がいい」
「うん、まぁ。否定しない」
「……」
きょとんとした顔のままではあるものの、ユウキはまたもやうなずいた。末っ子王子とは言え王族相手だぞ。ちょっとは否定とか
なんていうか――。
「すっごい腹立つ」
「えーっと……〝事実を言って何が悪い〟?」
ユウキは澄ました顔で俺のセリフを真似した。だから、ちょっとは否定とか謙遜とかしろ。
……なんて思うし、腹も立つけど――でも、事実なのだ。
「そうだよ、事実だよ。俺よりもユウキの方が運動神経がいい。剣も得意だ。そんなユウキが前世の記憶を思い出した途端、〝戦争なんてイヤだ〟なんて言い出すんだ。きっと俺が戦場に出たらひとたまりもない」
「それは……」
何かを言いかけてユウキは結局、唇をかんでうつむいた。
多分、きっと、正解。俺なんてひとたまりもないのだろう。戦争なんて経験がないからよくわからないけど。
「それに……」
戦争なんてイヤだ、あんな思いを二度としたくないと叫んで気を失うほど。うなされ、吐きそうになるほど。
そんなにも嫌がっているというのに、末っ子王子とはいえ王族の乳兄弟であるばかりに――俺の乳兄弟であるばかりに戦争に行かないといけないなんて……それこそイヤだろう。
どうにもならないときは乳兄弟の縁を切るという手もある。
でも、できるなら――。
「それに……?」
「……なんでもない」
首をかしげるユウキにひらりと手を振ってみせる。そして、顔をあげると真っ直ぐにユウキの黒い目を見つめた。
「だから、戦争に行かないですむ可能性があるならそう簡単にあきらめるわけにはいかないんだ」
「でも、魔力がなくちゃスキルは使えないだろ」
「いいや、魔力ならある」
そう言って俺はふんぞり返った。
そして――。
「魔力なら、俺のがある!」
ユウキへと手を差し出したのだった。
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