第5話 スキル〝すーぱーのたなか〟ってなんなんだよ!
「なんだよ、〝すーぱーのたなか〟って……」
「どうどう」
「なんなんだよ、〝すーぱーのたなか〟って!」
「どうどう」
「どんなスキルなんだよ、〝すーぱーのたなか〟って!!?」
「どうどう、どうどう」
「〝どうどう、どうどう〟ってそれもなんなんだよ、ユウキ!」
いきおいよく振り返った俺はソファに座るユウキをキッ! と、にらみつけた。ユウキはきょとんと俺を見つめたかと思うと――。
「あれ? ……あ、これも前世で使われてた言葉か」
ポン! と手を叩いた。
ここは小アーリス城の一階にある俺とユウキの部屋。
忍び込んだ神殿に長居するほどバカじゃない。さっさと出て、元あった鉢植えの下にカギを戻し、何事もなかったかのように澄ました顔で昼食を食べてから自分たちの部屋に戻ってきて――今である。
「で、〝どうどう〟ってのはなんなんだ」
「馬や牛を止めたり落ち着かせたりするときに使うかけ声」
「末っ子王子とは言え王族である俺を……こんなにもかわいい俺を! 馬や牛扱いするとはいい度胸だな、ユウキ!」
「自分でかわいいとか言うなよ」
「事実を言って何が悪い」
フン! と鼻を鳴らして俺はどさりとソファに腰かけた。
「〝すーぱーのたなか〟っていうのも前世の言葉なんだよな」
対面に座るユウキはこくりとうなずいた。
「タナカっていうのは人の名前。名字。アルで例えるならアルバート・グリーン・リグラスのリグラス部分……あー……それよりはグリーン部分かな」
「名前は名前なんだろ。そのあたりはテキトーでいい、テキトーで。……で?」
あごで話の続きをうながすとユウキは再びこくりとうなずいた。
「スーパーっていうのは……店のこと。食べ物とか服とか下着とか生活雑貨とか……そういうのを売ってる店のこと、かな」
「パン屋や肉屋、油屋や金物屋みたいな店のことをユウキの前世では〝すーぱー〟と呼んでいたということか」
「うん。……うーん? いや、ちょっと違うかな」
ポリポリとえり首をかきながらユウキはうなり声をあげた。
「パン屋も肉屋も油屋も金物屋も全部入っている感じ?」
「だとすると店より
「あぁ、そうかも。……でも」
まだ何か引っかかるらしい。ユウキの前世の話を理解するのは結構、面倒くさそうだなと金色の前髪をくるくる指でいじっていた俺は――。
「市場と違っていつでもそこにあって、いつでも買える店のこと……かな」
「いつでもそこにあって、いつでも買える!?」
ぎょっとして聞き返した。ユウキはといえば平然とうなずいている。
この国、この世界の店はパンならパンだけを焼き、油なら油だけを仕入れて売るのが当たり前だ。近くに店がないからと遠い街や村まで買いに行くのだって当たり前。
市場ならいろんな店が集まるけど毎日開かれるわけじゃない。多くて月に二度、決まった日にいろんな地域からいろんな人たちが馬車や荷車で商品を運んできて集まるのだ。
当然、季節によっては並ばない商品もあるし、市場に売りに来れない人たちもいる。
毎日、市場みたいなものが開かれているなんてとんでもない話だ。
「それはすごいな……すごく便利そうだ……!」
「うーん、まぁ、そうなのかな。日本では当たり前だったからなぁ」
ポリポリとえり首をかいてユウキは困り顔で言った。
前世の記憶を思い出す前のユウキが〝すーぱー〟の話を聞いたら俺と同じように驚いたはずだ。さも当然と言わんばかりのユウキの反応に前髪をくるくるくるくる指でいじりながら唇をとがらせていた俺だったが――。
「スーパーのタナカっていうのは俺が住んでいた町にあったスーパーの名前なんだ。小さなスーパーだったけど田舎だからそこくらいしか買い物できるところがなくてさ。ほぼ毎日のように行ってたよ」
「田舎!? 王都じゃなく!!?」
ユウキの言葉に再びぎょっとした。
市場が開かれるのは王都や主要な街だけだ。田舎ではパン屋の一件すらないのも当たり前。
だというのに――。
「うん、すっごい田舎」
ユウキはやっぱり平然とうなずくのだ。市場みたいにいろんな商品がそろっていて、毎日買えるような場所がすっごい田舎にでもあるのだと当然のように言うのだ。
感覚の違いに頭がクラクラしてくる。これ以上、深く聞くと思考が止まってしまいそうだ。
「……〝すーぱーのたなか〟が店だってことはわかった」
「ア、アル……?」
額を押さえるとユウキが心配そうな声で言った。気にするなとひらひらと手を振って話を進める。
「それで、結局のところ〝すーぱーのたなか〟っていうのはどんなスキルなんだ。何ができるんだ」
「うーん、どんなスキルなんだろう……?」
「……おい」
「アルこそなんか知らないの? 転生者の話みたいに転生者のスキルの話もメイおばさんとか
「んー……」
ユウキに聞き返されて前髪をくるくる指でいじりながら考えてみたけどなんにも出てこない。ユウキの方もえり首をポリポリかきながら考えているようだけどなんにも出てこなさそうだ。
こうなったら――。
「実際にスキルを使ってみよう。それが一番てっとり早い!」
いきおいよく立ち上がる俺を見上げてユウキはぎょっとした。
「もうすぐケリー先生が来るぞ!?」
ケリー先生というのは俺とユウキに勉強を教えてくれている家庭教師。
髪は真っ白でメガネをかけたおばあちゃん先生なのだけど、なにせ怖い。無言でにらみつけられたときの圧がとにかくすごいし怖いのだ。
「宿題やってないなんて言ったらにらまれるぞ! ものすっごくにらまれるぞ!」
「どうせ今からやったって間に合わないだろ。昨日、ユウキが倒れて運ばれたことはケリー先生の耳にも入っているはずだ。にらまれたらユウキのせいにするから大丈夫、問題ない」
「アル、お前……ほんっっっと清々しいほどに最低なクソ末っ子王子だな」
なんてため息をつきながらもユウキも立ち上がった。なんだかんだ言って自分のスキルがどんなスキルなのか気になるのだ。
にんまりと笑う俺に気が付いたユウキは顔をしかめて言ったのだった。
「……うるさいぞ、アル」
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