私たちが通う千葉市の女子校は世間知らずが多いんだけど、なぜか私たち三角&四角コンビが彼女たちの世間知らずを治すことになった。でも私たちだって完璧超人じゃないので七転八倒の大騒ぎ
第5話 世間知らずを治す委員会・略して世治会を運用するのは腹黒とトリックスター
第5話 世間知らずを治す委員会・略して世治会を運用するのは腹黒とトリックスター
柳先生は、ふふふと不気味な笑みを浮かべながら、木陰の裏から出てきた。
「ちゃんと掃除してるのか心配だったから、ずっと見守ってたのよ」
私はちょっとだけ感心した。いつもは頼りない担任の先生だけど、やるべき仕事はやっているんだなって。
「柳先生、せっかくなら、ちょっとぐらい手伝ってくれてもよかったのに」
私が冗談まじりで文句をいったら、柳先生は苦笑いした。
「それじゃあ、シカコさんが社会奉仕活動をやる意味を失っちゃうでしょ。あくまで罰をこなすことで、停学を免れる仕組みなんだから」
シカコは、ふふんっと自慢げに鼻の下をこすった。
「真面目に掃除したぜ。これなら文句ないだろ?」
柳先生は、ぱちぱちと小さく拍手した。
「あのシカコさんが、千葉神社の清掃活動を通じて、社会性を身に着けた。この驚きの事実は、教職員の間で、ちょっとしたアイデアに発展したのよ」
柳先生のスマートフォンでは、教職員用のラインが展開されていた。どうやら私とシカコがちゃんと掃除しているのか、職員室に報告していたらしい。うーん、文明の利器を使った監視任務かぁ、あんまりいい気はしないなぁ。
それはともかく、どうやらこのライン上で、奇妙なアイデアが生まれたようだ。
私は、すごーく嫌な予感がした。だってこれが柳先生の悪い顔の理由なんだろうし。
「柳先生っていうか、うちの学校の先生たち、妙なこと考えてますね……」
柳先生は、まるで秘密の悪事をお披露目するボスキャラみたいに語った。
「うちの学校の世間知らずな子たちを、世間慣れさせる仕組みを作ることになったわ」
世間知らずを、世間慣れさせる仕組み?
いやまぁたしかに、うちの女子校は、ちょっと足りない子が多い。シカコのトリックスターっぷりが目立っているが、他にも問題児は存在する。とくにうちの学年は悪い意味で豊作だった。
そういう子たちの卒業後の苦労を減らすために、世間知らずを緩和する仕組みなんだろう。学校側の意図はよくわかった。社会的な意義もあるだろう。
だが問題点が一つだけあった。
「誰が作って、誰が実行するんです、その仕組み」
たとえ必要な仕組みだろうと、誰かがコストを負担することになる。実現不能な理想論と、実現可能な名案の決定的な違いは、コストのことまでちゃんと考えているかどうかだ。
柳先生は、私とシカコの肩を叩いた。
「最初の成功例である、三角&四角コンビが中心になってやるのよ、教職員のバックアップを受けてね。もしこの取り組みが成功したら、来年とか再来年あたりに、一般的なカリキュラムとして運用することになるから、がんばってね、二人とも」
「私たちがロールモデルになるっていうんですか!? なんでそんなことしなきゃいけないんです、私には受験勉強があるっていうのに」
私は良い大学にいきたい。そのためには勉強がかかせない。とてもではないが、謎の組織作りなんかに関わっている暇はないのだ。
しかし柳先生は、待っていましたといわんばかりに、とあるデータを見せてきた。
「サカミさんは、いい大学にいきたいんでしょ? なら、世間知らずを治す委員会・略して世治会(せなかい)をやってくれたら、内申点がよくなるわよ」
「やります! 私、人助けが大好きです!」
うそだ、すべては内申点のためである。
近年、大学受験のルールが改正されて、筆記試験一発勝負だけではなく、高校時代の内申点が考慮されるようになっていた。
もちろん大学によっては、以前のような一発勝負を維持しているところもある。だが私が高校三年生になるまでに、内申点のルールが強化される可能性はゼロではない。
良い大学に合格するためには、あらゆる可能性を想定したほうがいい。
私は内申点のために、世治会をやることにした。
だがシカコの意思はまだ聞いていない。彼女は内申点なんてどうでもいい立場だ。卒業後の進路は、実家の牧場を受け継ぐことだから、大学受験なんて一切関係ないのである。
しかしシカコは、意外にも前のめりだった。
「いいぜ、あたしもやる。これまで、ただの頭のおかしい迷惑キャラだと思われてたことを、正直者の心意気でひっくり返すためにな」
どうやら神主さんの助言のおかげで、彼女なりに守りたい良心が生まれたらしい。
なんかちょっとだけ、シカコがまともな女の子に見えてきた。
それと比べて、私は内申点を欲しがる腹黒だ。
でもしょうがないじゃない。私はすでに高校受験を失敗した身だ。大学受験では失敗できないのだ。そのためには、あらゆる可能性を考慮して、内申点を確保しておきたい。
良い大学に合格するために、世治会をやりきってみせる。
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