2022/12/22 【イーオンズエンド:終わりなき戦い】

 クリスマスをこんなに楽しみに待っているのは初めてかもしれないと貴子は自室でボードゲームを広げながらワクワクしている自分に戸惑っていた。でもどこか心地がよい戸惑いだ。


 広げているのはクリスマスの前倒しで買ってもらったイーオンズエンドの独立型拡張版。終わりなき戦いだ。独立型拡張と言うのはそれ単体でも遊べるし基本セットと混ぜて遊んでも大丈夫と言うやつだ。


 基本セットに比べて使いにくいけど使いこなせれば強力。みたいな内容が多い。新しい敵は強敵揃いらしい。この前はまったく歯が立たなかったけれど今回はせめて一矢報いたい。


 なぜだかセカンドダイスにはこの終わりなき戦いは置いていなかったので買ってはみたもののひとりではクリアは難しそうで後悔していたりもする。でも、失敗してもクリスマスの日に四人で基本セットも混ぜて遊べたら楽しそうだと密かに思ってたりもする。


 驚いた顔の敬子けいこの表情が笑顔になったのを見て心底ホッとしたのを今でもさっきのことのように思い返せる。クリスマスに圭佑けいすけとふたりきりで過ごすのにも飽きてきたのと言っていたが多少なりとも貴子に気を使っていたような気がする。


 美鶴も同様だ。誰かと約束があってもおかしくないし、ちょっだけ悩んだ様子も見受けられた。それでも一緒に遊んでくれると約束してくれたのだ。


 場所は昼間のセカンドダイス。店長も嬉しそうにテーブルを確保してくれると言ってくれたのだ。あとはその日を待つだけだ。それまでこれまで通り、自分の部屋で至高の一手を選択できるようにひたすらに思考を続ける。


 突然、自分のスマホが震えて驚いてしまう。普段はめったに通知なんて来ないからだ。


『クリスマスはどのボードゲームやるか決めましたか?私の方でもいくつか見繕っておきます。当日が楽しみですね』


 美鶴からの連絡だ。こんなふうにボードゲームを遊ぶことが出来るなんてついこの前まで思ってもみなかった。


 『部屋で大人しくしてるのよ』


 相変わらずその言葉は頭から離れてはくれない。でもそれが全てではないし、部屋で大人しくはしている。たとえそれが自室じゃなくてもだ。


 屁理屈かもしれないけれどそう思うだけで少しだけ心が軽くなった気がした。


 手元のイーオンズエンドもそれに応えるかのように調子がいい。なんならこのままひとりで勝ててしまう気すらする。楽しみはあとに取っておこうと思ったのだけれど。いやでも強大な敵はこの拡張だけでもあと三体いる。そのどれもが今の敵より強いはずだ。


 やりたいことはたくさんある。きっとクリスマスの一日だけでは足りそうもない。でもそしたらまた誘えばいいはずだ。きっとみんな快く了承してくれるはずだ。


 だから一旦はクリスマスを全力で楽しめばいいのだ。そう貴子は目の前のことだけに今は集中することにした。


 


 

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