2022/12/21 【メイズスケイプ】
突然のことで言葉が出ない。逃げるように帰ろうとしていたなんて言えない。でもふたりの顔を目の前でみてホッとしたのも事実だ。セカンドダイスのみんなは
「そうなの?まあ、随分と暗くなっちゃったしね。よかったら送りましょうか?」
「じゃあ、気をつけてね」
その言葉を受取ると階段を降り始める。しかし頭の中はこれで本当に良かったのかという疑問でいっぱいだ。
『部屋で大人しくしてるのよ』
最初から答えは出ているはずなのだ。
言われたとおりにしていればいい。
それが、小さい頃からひとりで過ごしてきて学んだことのひとつだ。これまで疑問に思ったこともなかった。それでなんの問題もなかったはずだ。たとえ学校に行かなくても、友達ができなくても、だれからも何も言われなかった。自分の世界だけを作っていけたのに。これまでずっとそうだったのに。なぜだか今は悩み続けている。
階段を降りきる前に足を止めてしまった。自分でもどうしていいのかわからない。でも今のセカンドダイスにも自分の居場所はないと感じた。本当にそうだろうか。現にともやも、店長も敬子もみんなもう帰るの?と言っていたじゃないか。
今日はみんなを誘うんだと決意して来たはずだ。でも自分のしようとしていることが真逆を向いている事に気がついて貴子は踵を返した。
この前遊んだばかりの迷路みたいなボードゲームを思い出した。道を辿ってゴールまで向かうそのゲームはもちろん一筋縄にはいかない。紙を折ったり広げたり。そうしながら道を繋いでゴールまで目指すのだ。名前は確かメイズスケイプだったはずだ。
自分がどこにいるのかどれくらい進んだのかゴールまでどれくらいなのか。それが全くわからない状態での迷路は不安でしかなかった。でも、ちゃんと進んでいればゴールに辿り着くことができた。でもそれは道を戻らなければの話だ。
貴子は今進んできた道を結局、逃げて戻ろうとしている。でも進み続ければきっとゴールにたどり着けるのかもしれない。
進むにはこの階段を登るしかない。たとえ今降りてきた道でもそっちが進む方向なのであればそうするべきだ。ゆっくりと足を動かしだす。頭の中はお店にはいってから何を言おうかをずっと考えてしまって焦りばかりが募っていく。
そうしている間にいつのまにかセカンドダイスの前に戻ってきていた。扉に掲げられたマスコットキャラクターのペンちゃんがこちらをみている。なんて声をかける。どう誘えばいい。扉へ手が伸びない。
そうしている間にガラス扉の向こうの店長がこちらに気がついてしまった。こちらにこようとしているのを手で制止して自らこちらに歩いてきたのは敬子だ。なぜだか美鶴も一緒だ。貴子がうろたえている間にセカンドダイスの扉が開いた。
「どうしたの?」
心配そうな顔がふたつ目の前にあった。言え、言うんだ。いま言わなくちゃずっと言えないまま。遊べないボードゲームに囲まれたままだ。
「く、クリスマスの日にみんなで一緒に遊びませんか!」
自分でもびっくりするくらい大きなその声に、驚いていたのは貴子だけではなかったようだ。
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