2022/12/19 【イーオンズエンド】

「いない」


 セカンドダイスへ足を踏み入れた瞬間そう呟いてしまった。がらんとしたセカンドダイスの様相に入り口で思わず足を止めてしまった。


「いらっしゃい貴子たかこちゃんだよね。最近良く来てる子がいるって店長から聞いてるよ」


 受付のお兄さんは店長ではなくてあんまりみたことない人だった。制服であるエプロンについた名前にはともやとひらがなで描かれている。それにしてももこうは貴子のことを店長からどんな話を聞いているのだろう。小学生なのに毎日のように来ていると話されているのだとしたらと思うと気が気ではない。


「だれか探してるの?」

「いや別に」


 ともやは耳が良いのか貴子のつぶやきを聞き漏らさなかったらしい。


「そっか。あっ。奥のテーブルを使っていいよ。いつもの席なんでしょ?」


 ともやに促されるままにテーブルに座る。ここ最近座っていれば誰かに声を掛けられたのだけれどどうやら今日はそれは起きないようだ。いたら勇気を振り絞って誘ってみるつもりだっただけにどこかホッとしてしまう。


 でも。今日遊びたかったボードゲームを遊ぶことができないのだと落ち込みもする。がらりとしたセカンドダイスは大学生らしいグループがひとつだけ。よくよく考えてみれば平日の昼過ぎから美鶴や敬子がいるわけもないのだ。もしかしたら自分と遊んでくれたのも一種の気まぐれでもう遊んでくれないかもしれないと不安にもなる。時間が限られているのは大人だからだ。想像でしかないけれどそう思う。


 店内の音楽がクリスマス仕様に変わっていて、ようやくもうすぐクリスマスなのだと気がつく。今年もひとりっきりのクリスマス。きっとボードゲームがひとつ増えるだけ。今年は何をねだったのかもう覚えてはいない。きっと適当に見繕ってくれるし、なぜだかそこのセンスだけは信じている。


 誰か来るかもしれないし、ひとりで遊べるものを店内で探す。


「やったことがなければイーオンズエンドがおすすめだよ。勝つのはちょっとむずかしいけど悔しいからなんどでも挑戦したくなるし」


 ともやがカウンターの向こうからひとつのボードゲームを指さしている。特に決めていなかったので言われるがままにその箱を手にするとテーブルへと戻る。巨大なモンスターが一面に描かれている箱はちょっとだけ怖かったりもする。


「巨大な敵をデッキのカードをつかって倒すのが目的の協力ゲームだよ。ソロプレイも出来るようになってるからそのとおりに進めれば大丈夫。ひとりだと勝てないかもしれないけど頑張って」


 突き放されたような言い方だけど、ボードゲーマーはみんなこんなものだ。余計なちょっかいを出されるよりかはよっぽどいい。


 プレイヤーの代わりとなるキャラクターをひとり選択して、初期のデッキを作り手札を用意する。自分の体力を用意して敵の準備もひとりなので当然行う。こっちは十しかないのに敵は七十。その差に絶望を覚えながらもとりあえず進めてみた。


 あっという間に敵が増え、倒しきれなくなり、こちらの体力ばかり削られていくのを焦りとともに夢中になって遊んでいた。


「おっ。いらっしゃい。四人一緒なの久しぶりにみた気がするね」


 ともやの声に気になって入り口を見ると美鶴が来たのがわかる。しかし、一緒に三人の女性の姿も見えた。


「それってともやくんがそこにいるからでしょ。バイトじゃなかったらいっつもチヒロと一緒にいるんだから」


 わいわいと会話をしながら四人でテーブルついて、そこでようやく美鶴は貴子に気がついたみたいで軽く手を振ってくれる。


 誘えない。向こうは面子が揃っている。ここで貴子のやりたいゲームを一緒にやろうなんて言えるはずない。幸いイーオンズエンドは終盤だ。さっさと終わらせて帰ればいい。


 そんな貴子の気持ちを察したかのように敵の大きな攻撃が貴子のプレイヤーを襲い、そのダメージを全体共有の体力に割り振った結果。ゲームオーバーとなった。

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