2022/12/16 【ウィングスパン】
「あっ。
「こちらこそ。楽しかったです」
その人が良さそうな空気に押されてつい真面目に返してしまう。そもそもなんで声を掛けてくるのだろう。
「しっかりしてるよね貴子ちゃん。今日もひとりなの?よかったら私と一緒にボードゲームやらない?」
その言葉がなんでだかわからないけれどもやもやする。
「小室さんは……」
「あっ。私のことは
こちらがしゃべらないのに敬子さんはよく喋る。不思議そうに見上げることしかできない貴子をよそに敬子は話を止めようとしない。
「ところでバードなふたりは前からなかよしなの?」
はて。バードなふたりとはいったいなんのことなのか。反応できないでいると敬子はなにかに思い当たったみたいだ。
「ほら鶴と鷹で鳥同士だったからバードなふたり。いいでしょ」
なにがいいのかわからないし
「私の字は鳥の鷹ではないので」
「えっ。違うの。ごめんね。気に入らないならもう言わないから」
随分と歳上なのに簡単に頭を下げるのだなとずれた方向にアタマが働いてしまう。
「いえ。いいんです。それにしても面白いですね。バードなふたりって」
「そうでしょ。そうでしょ。いいと思ったの」
面白いとは言ったけれどいいとは言っていない。でもあえて訂正する必要もない。
「あと美鶴さんとは仲良しでもないです。会ったばかりですし」
「あら。そうなのね。仲良さそうにしていたからてっきりそうなのかと思っちゃった」
そう見えた事自体が不思議だ。貴子からすれば美鶴に負け続けていることが悔しいだけだ。そしてリベンジを果たしたはずなのに悔しさは晴れていない。
「せっかくだからウィングスパンをやらない?」
鳥繋がりなのはわかるけれど、そう来るかといった感じだ。いつのまにか遊ぶことになっているのも不思議だ。
ウィングスパンは鳥類愛好家になって鳥を集めるゲームだ。餌箱型のダイスタワーや卵コマなどウィングスパンにしかみられないようなコンポーネントが多く見た目からも人気が高い。
敬子も美鶴もどうして自分のことをこんなにも気にしてくるのだろう。
「まあ、いいですけど」
でも。不思議とそれが嫌じゃない。それが貴子は自分のことなのに他人事のように感じていた。
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