2022/12/13 【ドラスレ】

 貴子たかこは珍しく部屋で大人しくダイスを転がしていた。セカンドダイスを訪れれば店長にまた何かをお願いされるかと思ったからだ。そう毎日毎日そんなお願いはされないだろうし、今日も美鶴みつるがお店にいるなんて確信はない。それでもなんだか出向きたくなかった。


 広げられたマップボードに置かれているコマを六角形のマスからマスへと移動させる。その先に置いてあるクエストチップをめくって書いてある目標の数字を超えられるかダイスを振るのだ。RPGの様な要素がふんだんに盛り込まれたボードゲームはドラスレと言った。


 ドラゴンスレイヤー。竜を殺す者。略してドラスレ。そのドラスレ自体が正式名称だ。ダイスの目に左右されやすいこのゲームは強力してゲームに挑む。ひとりでは勝てないドラゴンも人数を集めれば倒せるかもしれない。そういうコンセプトだろう。


 でも貴子は今はひとりでやっている。でも仲間はひとりじゃない。


 ボードゲームをひとりでやるにあたって方法はいくつかある。主に自分の管轄のところをメインに処理して他のプレイヤーの部分を簡略化しどのような具合でゲームが進行していくのか試すやり方。オルレアンのときに貴子がやっていたのはこのやり方だ。


 そして、こういった協力型のゲームで主にやっているのは複数のプレイヤーを同時に操作するやり方だ。全員分の処理を一人でやるのだから大変ではあるができないことはない。相談する時間とかも含めればこっちのほうがゲームが進むことだってある。


 特にドラスレはダイスの目の影響が大きく複雑な処理を行うことは少ない。気ままにダイスを振りながら遊ぶにはもってこいだった。


 なんで気ままに遊びたかったかと言われれば全部昨日セカンドダイスで美鶴に負けたせいだ。


 すぐにでもリベンジしたい気持ちが強いのだけれど、昨日の二の舞いにしかならない気がした。それにどのゲームをするか思い至らなかったからなのもある。


 ぼんやりと得意なボードゲームを思い浮かべながらドラスレを進めていたらいつのまにかクライマックスのドラゴン戦まで進んでいた。ドラスレはちゃんと動けば必ず勝てるようなゲームではなくある程度の運が必要となってくる。いくら万全の体制で挑んでも勝てないときは勝てないのだ。その中でもどう勝ちにつなげていくかを楽しむ。


 昨日のこともそうであったようには思う。最善と思える手を打ち続けた。それでも美鶴には勝てなかった。


 昨日のイライラをぶつけるようにダイスを転がす。そしてその目をみて大きく息を吐いた。ドラゴンのブレスに操作していた全員がダメージを受ける。さらに爪やらでひとりずつ倒されていく。


 スランプだ。こんなに偏ることはこれまでなかった。全部美鶴に負けたからだ。であれば、次の美鶴との勝負は避けて通れない。密かに再戦を決意し。明日はセカンドダイスに行くことを決めた。

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