バードなふたり

2022/12/11 【オルレアン】

 セカンドダイスの日曜日は満席なことが多いし、相席希望の人も多くていつだって賑わっていることが多い。それでも夕方以降は人も減る。次の日の仕事や学校のことを考えれば当然のことなのかもしれない。それでも木宮貴子きのみやたかこは自分とは関係無いとテーブルに広げられたボードとにらめっこする。


 ひとりでやるボードゲームではないものをひとりで広げることはよくある。ルールの確認だったりインストの練習だったり、主に事前確認で行うことが多いらしい。セカンドダイスの店長が初めてここを利用したときに話してくれたことだ。


 でもそれが貴子に当てはまらないことを知ると店長は驚いた顔と共になぜだか喜んでいた。そして本当はだめなんだけどこうして一人でテーブルを占領することを許可してくれた。


 人数と時間で収益を得ているボードゲームカフェにおいてひとりでテーブルを使われるのは勘弁してほしいと初めは渋ったのだ。それも土日、祝日は特に。


 貴子はそのことを悪いとも思っているので日曜日はこうやって夕方過ぎにお邪魔している。ちゃんと料金も払っている。月払いのフリーパスもあると勧められたがそれは断った。自分のためにここを使わせてもらっているのだ。それくらいは当然だと思っている。


 今広げているのはオルレアンと言うボードゲームで実際のフランスの街を舞台にしている。ボードもたくさんあり、とても自室では広げきることができない大きさだ。自分でも購入したのだけれど箱も大きいし重たいのでセカンドダイスのものを借りている。


 バッグビルディングと呼ばれるメカニクスはバッグ……それ用の袋の中からランダムにコマやチップを取り出す。取り出したもので出来ることを行い得点をつながることをしていくものだ。オルレアンの場合はワーカー。つまりはボードに乗せて仕事をさせるコマを取り出す。そのワーカーの種類によってボード上における場所が異なるし置いたときに得られる効果も異なる。新たにワーカーを得て次に繋げたりマップを移動したりとやれることが非常に多い。


 だからやれることが多くその分、試行回数をいくら重ねても終わりは見えない。所謂、至高の一手を目指すためにはこうやってひたすらにゲームをしなくてはならないのだ。


 それを素直に店長に説明したら喜んだのだ。もしかしたら店長も同じように至高の一手を目指している同志なのかもしれない。しかしそんなのはあんまり関係ない。自分でたどり着かなくては意味がないからだ。


 バッグの中からコマを取り出す。それを見てボードを眺める。どうするかをひたすらに考えるこの時間が貴子にとって貴重な時間だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る