2022/12/08 【アズール】

 クラッカーの音に驚いたみんなの表情が脳裏にちらついて我ながら、らしくないことをしたと思う。驚いたみんなに話を聞いてもらうのは想像以上に順調だった。小四男子の活躍も大きかった。それが演技が思った以上に上手だったのだ。それも絶妙にわかりにくい演技だったのだ。それがわざとなのか、自然が為せる業なのかはわからない。でもそれがクリスマス会を盛り上げてくれたことは間違いない。彼には感謝してもしたりない。


 今みんなが遊んでいるのはアズールと言うタイルゲームだ。美しい装飾タイルを自分のボードに集めて並べて得点していくのを目指す。これが様々なバリエーションがあって子どもたちには好きなアズールを選んでもらった。


 ベーシックなものは宮殿の壁をタイルで装飾するが、そのほかには庭園を飾るものやステンドグラスを装飾するものチョコレートを集めるものまである。基本的には中央に置かれたタイルの集まりからどれかを選んで、そのタイルを集めることで得点につながるというのは全部に置いて共通なものだ。


 みんな各自思い思いに色とりどりのタイルを集めては感想を述べている。ちゃんと、高得点を目指す子どももいれば自分が好きなものばかりを集めている子どももいる。みんな思うがままの楽しみ方で遊んでいるように見えた。


 それを見てなんだか腑に落ちたというか、何かに納得している自分がいた。なにかにこだわりすぎていたそんな気がする。おそらくだけれどセカンドダイスで遊んでいる人たちを見すぎていたのだと思う。それもボードゲームを深いところまでしゃぶりつくそうとしているコアなゲーマーを見る機会が多かった。だからボードゲームはこう楽しむものみたいな先入観が知らない間に身についてしまっていた気がする。


 全部想像に過ぎないし、実際どうなのか全くわからない。店長あたりに相談したら怪訝な顔をされてもおかしくはないくらい妙なことを考えているものだと思う。でも、全部をきちんとやろうとしすぎてそれが子どもたちに筒抜けで楽しくなさそうだと思われてしまったのかもとぼんやりと思う。


「どうしたの。トナカイさん?」


 小四男子がこちらを見上げていた。君はトナカイになつきすぎじゃないかと思うけれど、ちょうどゲームが終わって次のテーブルに移動するまでの時間が暇だったのでよってきたらしい。


「そういえばこれ返すね」


 サンタ帽を手渡してくる。ずっと被ったままだったのか。まあ、サンタクロース予定だった人は結局来なかったのだ被ってくれたほうがいいだろう。と言ってもこのまま被らせてもおけないから返してもらう。


「今日も楽しかったね」


 そう言って去っていく小四男子を見送る。手元に残ったサンタ帽を見て結局ハルはどうしたのだろうと。遠くを見つめてしまった。

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