2022/12/07 【はぁっていうゲーム】

 しっかりとその場を仕切ることができなかった。それで諦めてしまったけれど、それでもこうやってまだボードゲームで遊びたいと思っている子はいるのだ。ハルにもとしくんは難しく考えすぎなんだよと言われたのを思い出す。


 そもそもボードゲームは失敗の連続。失敗を積み重ねて試行と思考の繰り返しのはずだ。だからこそ面白く、またやりたいと言える想いが生まれる。


「ボードゲームは面白い?」


 小四男子はまたもやこくりと頷く。もうゲームは終わったはずなんだけれど、つい続けてしまっているのだろう。


「そうだよな。ボードゲームは面白いもんな」


 トナカイの格好をしたお兄さんにそんなこともそんなことを言われても困るだけだろう。こっちが先に笑ってしまう。つられるように小四男子も笑顔を見せてくれる。


 とはいえどうしたものだろう。この騒がしい部屋で声は届きにくく大声をいくら出したところで全員が言うことを聞いてくれるのかはわからないしさっき何度か試していることだ。先に興味を持ってもらうことを用意しなくちゃならない。


 なにをすればいいのかわからないままホワイトボードに近づくとおもむろにペンを取った。持って来たったボードゲームの箱をいくつか眺める。今この状況でできそうなボードゲームを必死に考える。


 ひとつだけあった。でもこの状況でやれるかわからない。するとズボンの裾をちょいちょいと引っ張られた。小四男子がこちらを見上げていた。


「手伝うから」


 また諦めようとしていた。それにしてもすぐにそうやってこちらをやる気にさせてくる君はなんなんだ。それだけボードゲーム好きになっちゃったのか。それはそれで将来楽しみだし、深い沼にハマってしまわないか心配でもある。


「じゃ、よろしく頼むな」


 ハルのために用意してあったサンタ帽を小四男子に被せる。それが気に入ったのかわからないけど笑顔だ。やっぱりトナカイにはサンタクロースがいなくちゃな。ふと、サンタ帽と一緒になにかが転げ落ちたのを見つけて、驚きを隠せない。きっとハルが面白半分でサンタクロースやトナカイの衣装と一緒に買ったんだ。


 使っていいのか少しだけ悩んだがこのままじゃ埒が明かない。さっそくペンを動かし始める。ホワイトボードに書くのは、はぁっていうゲームのシュチュエーションだ。はぁと言うお題に対して出題者が実際に『はぁ』と言って見せてそれがどのようなシュチュエーションでのはぁかを当ててもらうゲームだ。例えば、『なんで?のはぁ』だとか、『怒りのはぁ』だとか。そういうのを出題者に演じてもらうのだ。


 演技ができるかわからないけれど小四男子にやってもらおう。その前にこの騒がしさもどうにかしなきゃらならないが、先に近くにあった台を持ってきて小四男子を立たせて身長が足りない分を稼ぐ。


 ハルに感謝しなきゃな。おそらく本人は軽い気持ちで買ったであろうクラッカーの紐を思いっきり引っ張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る